【論説】トランプ米大統領が、イラン核合意からの離脱を選択した。核不拡散体制を揺るがし、中東に緊張をもたらすばかりか、米国にとってのメリットもほとんど見当たらないので「米国第一」ですらない、誤った政策だ。イランの核開発を制限するため国際社会が積み上げた核合意という成果に、米国は一刻も早く立ち戻るべきだ。

 離脱表明を受け世界は即座に反発した。合意当事国のうち英仏独は「遺憾の意と懸念」を共同声明で発表。中国やロシアも「遺憾」「深く失望」などとした。EUは合意継続支持を強調、国連事務総長は「深い憂慮」を表明。日本も合意支持の立場を明らかにした。中東の同盟国、サウジアラビアとイスラエルは離脱を支持したが、米国の孤立は覆いようもない。歴史的な失策ではないか。

 トランプ氏は声明で、核合意はかえって核開発を許したと強調。▽ミサイル開発を阻止できていない▽査察が不十分―などにも言及した。だが、これらの主張に合理性は感じられない。

 まず、合意は核開発を完全に禁止できたわけではないが、イランの低濃縮ウラン保有量を300キロに制限した(15年間の期限付き)。核兵器転用をもくろんだとしても1発分に足りていない。トランプ氏は「期限付き」にも不満を示すが、代替案もなしに離脱すればその方が問題が大きくなる。査察については、国際原子力機関(IAEA)が定期的にイランは合意を守っていると報告している。

 また、合意がミサイル問題を含んでいないのは、当時のロシアや中国の主張に配慮した結果だろう。イランがミサイル開発を続けているのは事実だが、離脱カードを切ったところで解決への道筋が描けるとも思えず、米国は国連安保理での議論を探るべきだった。

 多国間の枠組みに対する対応としても、問題が大きい。合意は当事国間のみならず、安保理が承認したもの。環太平洋連携協定(TPP)やパリ協定でも離脱の前例があるトランプ氏は今後、あらゆる国際協議で信頼されない。米朝首脳会談を控え北朝鮮に強硬姿勢を示したとの見方もあるが、約束に対する一貫性のなさも同時にさらけだしてしまっては何もならない。

 イランは離脱に反発しながらも、米国抜きの合意存続の可能性を探るなど、比較的冷静に対処しようとしている。だが穏健派のロウハニ大統領が国内の対米強硬派に押され、窮地に陥るようだと、核開発再開に走る懸念も現実味を帯びる。

 イランは、日本の重要な原油輸入相手国。核合意後に締結した投資協定に基づき、民間投資や政府の技術協力が行われるなど、結び付きが強まっていた。トランプ氏は今後、各国とイランとの経済活動に圧力をかけてくる。日本としては米朝会談への影響も考慮しながら、何とか仲介役を果たしたい局面だ。事態がこのままでは、米国との協議は「トランプ後」で良い、と世界が考え始めても不思議でない状況だ。

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