シナプスの形成が出生直後のにおいに影響される仕組みを解明した福井大の井上展子学術研究員(右)と坂野仁特命教授=5月9日、福井県永平寺町の福井大松岡キャンパス

 嗅覚の情報を脳に伝える神経のつなぎ目(シナプス)の形成が、新生児期の身近なにおいに影響される仕組みを、福井大学医学部医学科国際社会医学講座高次脳機能領域の井上展子学術研究員(34)らの研究チームがマウスの実験で突き止めた。生後1週間で嗅覚に受けた刺激の種類や程度に応じて、においの感じ方の生涯にわたる差が生じる可能性を初めて明らかにした。将来的には神経疾患の原因解明につながる成果という。

 研究チームは同領域の坂野仁特命教授、西住裕文准教授、井上学術研究員や理化学研究所の研究員ら5人。5月9日付の英科学誌電子版に発表した。井上学術研究員は、ヒトも同様のメカニズムだと考えられると説明。新生児期に覚えた母親のにおいが成長後も安心感をもたらすことを例に挙げ、「生後の環境が、人格形成にも影響していることになる」と指摘している。

 においの刺激は、鼻の奥にある1次神経から前脳に送られ、シナプスを経由して2次神経に伝わる。出生前後に1次、2次神経がシナプスでつながるメカニズムはこれまで未解明だった。

 研究チームは今回のマウスの実験から、1次神経側に現れる分子「セマフォリン7A」と、2次神経側に現れる「プレキシンC1」の相互作用がシナプスの形成を誘導すると特定。セマフォリン7Aは、においの刺激を多く受けるほど大量に現れ、その刺激に応じたシナプスが完成していく過程も分かった。

 また、プレキシンC1がシナプスが作られる部分に存在するのは生後1週間に限られ、その期間だけで作られたシナプスが成長後も維持されると導き出した。

 井上学術研究員は「嗅覚のみならず聴覚や触覚、味覚など他の感覚系も同様のメカニズムが考えられる」と説明。カモなどがふ化した直後に初めて出合った動く物体について回る「刷り込み」の解明にもつながるという。ヒトの場合についても「幼少期に体験した故郷のにおい、母親の子守歌の声、親との触れ合いなどが神経回路形成に影響を及ぼし、成長後の行動にも影響を与えている可能性が高い」と話し、将来的には統合失調症や愛着障害などの原因解明の一助になるとしている。

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