福井県越前町のアトリエで作品について語る宇佐美圭司さん=2012年2月

東京大学生協の中央食堂に展示されていた故宇佐美圭司さんの作品「きずな」(大学関係者提供)

 東京大学生協の中央食堂に展示されていた画家、宇佐美圭司さんの大作が改修工事に伴い、昨年9月に廃棄処分とされ5月8日、同生協は「知識がなく軽率な廃棄の判断となり、深くおわびする」とのコメントを発表した。宇佐美さんは福井県越前町にアトリエを構え2012年に同町で死去した。宇佐美さんの長女でフリーランスキュレーターの池上弥々さん(52)=静岡県=は「必要ないなら、母が亡くなる間際に越前町につくった収蔵庫に収めたかった」と憤った。宇佐美さんの妻の故爽子さんは越前町のアトリエでともに創作活動を行ってきた。

 生協によると、展示されていたのは縦3・8メートル、横4・8メートルの作品「きずな」。1976年に生協創立30周年の記念事業の一環で宇佐美さんに依頼して制作され、生協が所有していた。

 中央食堂は昨年、全面改修工事を実施。工事の監修に当たった教授は作品を保存する方向で新たな設置場所を指定していたが、情報が共有されなかったという。生協は、作品を残したまま設計を変更するか、廃棄かの選択をしなければならないと誤認。廃棄の判断をした。

 東京大も8日「本学にも責任がある」と謝罪。「学内に存在する数多くの学術文化資産について、正確な情報共有を徹底したい」とした。

 宇佐美さんは武蔵野美術大、京都市立芸大の教授を歴任。越前町にアトリエを構え暮らした。大きな画面に無数の人を配し、緻密な構成力とスケール感のある画風で知られる。

 池上さんによると、「きずな」は代表的な人型の作風に回帰するきっかけとなった重要作。94年には生協の依頼で福井の額縁店が額装し直すなど、大切にされていると信じていた。

 8日、生協から謝罪したい旨の連絡を受けた池上さんは「ただただ残念。廃棄に至った経緯と再発防止策を文書で求め、文化財に対する考えをただしたい」と話した。

 宇佐美さんの所属ギャラリーだった南天子画廊の代表、青木康彦さんも「『きずな』は代表的な大作で、極めて残念だ。あまりにも軽々に廃棄されたことに戸惑いを感じている」と話した。

 宇佐美さんは1992年、「大きなアトリエが欲しくて東京から移ってきた」と越前海岸が見える越前町米ノの高台に移住した。広いアトリエで500号、300号という大作を描いた。2011年にがんが見つかり、療養しながら絵を描き続けた。12年10月19日、心不全のため同町の自宅で死去した。72歳だった。

 東京芸大で油絵を専攻し、画家だった妻の爽子さんはアトリエ内に窯を作り、本格的に陶芸家としての道を歩み始めた。爽子さんも16年に亡くなり、17年に2人の未発表作を中心とした作品展が福井市で開かれた。

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