【越山若水】小説家の浅田次郎さんの趣味は本人いわく一にギャンブル、二に温泉、三に音楽鑑賞。この三つを一遍に満たせるというので、あるとき世界カジノ巡りへ旅立った▼オーストリアにある名門カジノのマネジャーに、かねて聞きたかった質問をしてみた。「ルーレットのディーラーは狙った数字にボールを落とせるのですか」▼ディーラーが数字の刻まれた円盤を回し、小さなボールを投げ入れる。それが落ちる場所を当てるゲームだから、意のままに落とせるならカジノ側は絶対負けない▼ディーラー上がりのマネジャーは実際にやってみせ、器具の構造上無理だ、とニッコリ笑って否定した。が、見ると彼のボールは「0」に。「これは?」「もちろん偶然です」▼「カッシーノ!」(ダイヤモンド社)の一節に、カジノの本質を見た思いである。やぼは言いっこなしの場で、客に必要なのは熱くなり過ぎないだけの財布と心のゆとりだろう▼そう考えると、統合型リゾート施設(IR)整備法案が閣議決定された経過の薄っぺらなこと。日本人の入場料や回数制限の議論ばかり目立った▼「カッシーノ!」には、モナコの名門ホテルの部屋を永久貸与されたという老婦人が出てくる。亡き夫の伯爵がカジノの上客だったので、その返礼だという。嘘(うそ)か真(まこと)かも含め、この底知れないカジノ文化が日本人の手に負えるのか。

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