福井新聞文化賞の受賞が決まった際に、書斎でインタビューに答える加古里子さん=2014年10月、神奈川県藤沢市

 90歳を超えて創作意欲は衰えず、残した作品は600冊余り。亡くなる前日まで、子どもたちから寄せられたファンレターへの返事を気に掛けていた。5月2日に92歳で死去した福井県越前市出身の絵本作家、加古里子(かこさとし)さんの長女鈴木万里さん(61)=神奈川県藤沢市=は「少し休んではと声を掛けても、『死んでから休む』と返すような非常に仕事熱心な人だった。子どもたちのために命をささげ、生涯を全うしたと思う」と気丈に語った。

 約40年前から患う緑内障で左目はほとんど見えず、右目の視野は手のひらほどしかない。持病の腰痛を抱えながら、今年1月には東日本大震災で被災した「宮城」と「福島」、そして戦争の記憶が色濃く残る「沖縄」にちなんだ「だるまちゃん」シリーズの新作を3冊発表。3月には、自身が小学校卒業時に描いた絵日記を基にした本を刊行した。昨年5月に加古さんをインタビューした福井県ふるさと文学館の尾崎秀甫学芸員(36)は「記憶が鮮明で語り口は明瞭。100歳を超えても描き続けると思っていた」とショックを隠さない。

 激烈なまでの創作意欲。根底にあったのは戦争体験だった。軍の航空士官を志していた加古さんは19歳で終戦を迎え、態度を一変させた大人たちに幻滅するとともに、軍国少年だった自身を恥じた。

 だからこそ、未来を開く子どもたちに絵本を通じて夢を託そうとした。代表作の「からすのパンやさん」には、見開きページにパンダパン、電話パン、ハサミパンなど、84種類ものパンが描かれている。「絵本の中には常に子どもたちが自分の興味、関心が何なのかを見つけられるような仕掛けがある。子どもたちに自分の考えできちんと世の中を判断できる力を持ってもらいたいと語っていた」と尾崎学芸員は振り返る。

 2016年5月には、加古さんに宛てて手紙を書いた越前市武生南小の児童一人一人へ約100通の返事を出すなど、未来を担う子どもたちへの思いは徹底していた。このところはファンレターの返事が滞っているのを気にしており、亡くなる前日も読み上げてもらっていたという。鈴木さんは「父はいなくなっても、作品は残る。これまで通り作品を愛してほしい」と語った。

関連記事