【越山若水】泥棒に入られたブティック店主がしみじみ話す。「不幸中の幸いだったのは50%オフのバーゲンセール期間中だったこと。前日だったらと思うと、ぞっとするわ」▼何とも不思議な発言である。負傷者が出ずに胸をなで下ろすのは分かる。しかし被害額を値札で計算し、前日の半分で済んだと喜ぶなんてとても理解できない▼フランス文学者の野内良三さんが取り上げたユーモアである。続いてもう一つ、同じフランス文学者の河盛好蔵さんが医者に関するこんなジョークを披露している▼「安心しなさい。統計によると、この病気は100人に1人の割で助かっています。あなたはちょうど100人目。今まで私はこの病気で誰も治していませんから」。確率を持ち出して太鼓判を押す▼どちらも最初は納得しそうになるが、冷静に考えればおかしな理屈。現実でもそんな話を耳にする。その一つが連休直前の国会で審議が始まった「働き方改革法案」である▼残業時間に上限を設け処罰する一方、高度専門職の人は規制対象外。政府は「働く人の権利と健康を守るため、違法残業を根絶します」と威勢がいい▼ところが同じ口で「高給取りの人は時間に関係なく、気兼ねなく働いてください」と言わんばかり。随分と奇妙な理屈だ。日本発の「過労死」が国際共通語になっている現状を、政府はどう思っているのだろう。

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