文庫「異人たちの館」を手にする樋口麻衣さん。「超発掘本」に選ばれ、全国で樋口さんの手書きの言葉が印刷された帯が付けられて売られている=福井県福井市中央1丁目の勝木書店本店

 初めて読んだとき、心が震えるような体が痺(しび)れるような体験をしました。こういう作品を多くの人に読んでほしいと書店員になりました―。熱いメッセージのポップが添えられた折原一さんのミステリー小説「異人たちの館」(文春文庫)。福井県福井市の勝木書店本店の樋口麻衣さん(35)が売り場で地道に魅力を伝え、驚くほどの売れ行きを見せている。この作品が刊行されたのは1993年。3回目の文庫化を捉えて光を当てた。

 4月10日、東京・元赤坂の明治記念館での本屋大賞発表会。樋口さんは、作家の折原さんと壇上にいた。売り場での手応えを踏まえて推した「異人―」が、今年の「超発掘本」に選ばれた。

 授賞式で、樋口さんは、高校生で読んだ衝撃と作品の魅力を全国から集まった書店員に語り掛けた。スリップと呼ばれる、本に挟む伝票の束を掲げ、「お守りのように、いつもエプロンに入れています」と話すと、大きな拍手が起きた。スリップはレジを通せば必要なくなる。樋口さんは、本を売った証しを手放せなかった。

 「異人―」は、過去に2回文庫化されたが、絶版となった。樋口さんが本店の文庫担当になって売りたくても売れない十数年が過ぎ、2016年11月に復刊。「やっと全力でお薦めできる」と、取次会社に「無理をいって」30冊を確保し、売り場に積んだ。帯が付いていなかったため、手書きの帯を作った。そのうち樋口さんの熱意に出版社の営業担当者が応え、勝木書店向けに帯を作ってくれた。それから1年5カ月。4月末までに本店での販売数は200冊を突破。短期間にこれだけ売れた文庫は、本店でこれまでにないという。

 1冊1296円。文庫2冊分ほどの価格。手書きの帯に引かれて旅の土産に買った人もいた。「自分のエピソードをポップに書くことは初めてで、気持ちが人を動かしたのでしょうか」と樋口さん。作品については「新聞記事や手記などさまざまな文体がうまくつなぎ合わされ、飽きることがない。どんでん返しがあるのが折原さんの作品の魅力だが、これは群を抜く」と太鼓判を押す。

 書店員の熱気に満ちた本屋大賞の発表会場に初めて足を運んだ樋口さん。「それぞれの書店員が思いを込めて本を売っていることを感じ、力がわいた」と話す。だが「書店員が推す本がすべてではない。一人一人にとってかけがえのない一冊はさまざま。店に足を運んで出合ってほしい」。
 

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