【論説】安倍晋三首相が2020年までの憲法改正施行と9条への自衛隊の加憲を表明したのは、ちょうど1年前の今日。国会の場ではなく、改憲派団体の集会に寄せたビデオメッセージや全国紙のインタビューという異例の形だった。この時も森友、加計学園問題の渦中だったが、1年を経て疑惑は一層深まっている。

 首相は「政治は『信なくば立たず』だ。国民の信頼を回復するため努力を積み重ねる」と強調しながら、与党も含め真摯(しんし)に疑惑解明に向き合おうとはしない。一方で「究極の首相案件」と称される改憲、自衛隊の明記には「今を生きる私たちの責務だ」となお意欲を見せている。「信なき」政権に改憲を主導する求心力はもはやなく、撤回すべき時ではないか。

 国民不信の高まりは、共同通信社が行った世論調査でも明らかだ。「安倍首相の下での改憲」には61%が反対し、賛成の38%を大きく上回った。1年前の調査から反対は10ポイント増え、賛成は7ポイント少なくなった。国民は、一連の疑惑や不祥事が安倍「1強」体制のおごりや緩みに起因すると感じているからこそ、改憲にも警戒感を強めているのではないか。

 改憲は首相の宿願であり、1年前の掛け声に沿って、自民案がまとめられた。国政選挙5戦全勝という求心力があった時には、党内に不満がありながらも集約が進んだ。それがここに来て相次ぐ疑惑で総裁選3選を危ぶむ声が噴出している。党改憲推進本部の細田博之本部長は、会見で「首相が交代しても案は変わらないか」と記者に問われ、「そこが問題でして…」と答えた。改憲の根拠は1強の宿願だからという脆弱(ぜいじゃく)さをうかがわせるような発言だ。

 そんな流れでまとめられた自民案に、国民の目は厳しい。世論調査では4項目全てで「反対」や「不要」の否定的意見が上回った。条文の文言修正に終始し、緊急性や必要性に対する説得力に乏しいことを国民は見抜いているといえる。

 首相の「自衛隊を憲法に明記するだけで、現状と変わらない」との発言に、憲法学者からは「文章を変えれば、必ず新たに法的な意味が生じる」「何も変わらないのであれば、改正の必要はない」と厳しい声が上がる。より厳格な理由、一層の説明がなければ、「違憲論争に終止符を打つ」(首相)のは無理だろう。

 国家のあり方を定める憲法の改正論議は、政治への信頼がなければ進まない。それなのに、森友問題では財務省の文書改ざん、口裏合わせが発覚、加計学園では当時の秘書官が「首相案件」発言をした文書が見つかるなど、疑念は膨らむばかり。加えて防衛省・自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)、財務事務次官のセクハラといった政府や官僚の不祥事が次々に明らかになる異常事態だ。

 野党が麻生太郎副総裁兼財務相の辞任や、元首相秘書官らの証人喚問などを求め国会は紛糾。首相が目指す20年の施行には、他党との協議を経て年内の国会発議が必要とされるが、自民党内からも「憲法どころではない」との声が上がるなど先行きは見通せない。

 一連の疑惑は、権力の行使に制約を課す憲法の精神に反するものである。そんな政権が改憲の旗を振り続けても、「信」の回復は到底おぼつかない。

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