【論説】4月27日の南北首脳会談で、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が、「いつでも日本と対話を行う用意がある」との発言を行っていた。金氏の思惑は経済的利益にあるとみられるが、具体的真意がどこにあるかはまだ見えない。しかし、今回の南北接近が、日本人拉致問題解決のまたとない機会であることは確かである。日本は、対話の前提として拉致解決が絶対に譲れない線だと、北朝鮮に理解させる必要がある。

 金氏の発言内容は、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が電話会談で安倍晋三首相に伝えた。文氏は金氏に対して日本人拉致問題を提起、「首相の考え」を詳細に伝達したという。

 やりとりの詳細は明らかになっていないが、「首相の考え」とは南北会談の前に、日韓首脳が電話会談で話し合ってきた内容だろう。核・ミサイル開発や拉致問題の解決を前提とした上で、日朝平壌宣言にのっとり過去の清算、関係正常化を目指すというものだ。

 金氏が、「拉致解決が前提」と踏まえた上で、日朝対話に言及したのなら、局面の前進とみることはできる。とはいえ、拉致問題について北朝鮮は、今年3月ごろにも「解決済み」とのメッセージを伝えてきていた。揺さぶりを続けている可能性は消えていない。

 日本は、南北、米朝の両首脳会談の機会を捉え、拉致解決に向けて3段階の戦略を描いている。第1段階は、南北会談を通じて拉致問題を提起することで、これは実現した。次が重要で、米朝会談において、日本の立場をトランプ米大統領に主張してもらい、可能な限り北朝鮮の意向を引き出すこと。その成果次第では、最終段階の日朝対話に進むこともあり得る。

 ただ、このシナリオは米韓頼みであることは否定しがたい。対話に言及した金氏の真意も不明だ。経済制裁緩和に向けた駆け引きの一環なのか、巨額に上るとみられる日朝国交正常化に伴う日本の経済協力をあくまで狙っているのか。

 3月以来、中国と北朝鮮は急接近しており、ロシアのプーチン大統領も朝鮮半島情勢に関する協議からロシアが排除されないよう文氏に強調したという。元々、北朝鮮寄りの立場を見せる両大国の動きは、情勢を複雑にする。米朝会談後に国際社会が制裁緩和に向かうようだと、日朝対話の主導権を北朝鮮側に握られかねない危うさがある。

 拉致解決に向けて日本としては、6月上旬までの開催が見込まれる米朝会談に向け、あらゆる手段を通じ米韓との連携強化を図っていくしかない。河野太郎外相は4月末、就任したばかりのポンペオ米国務長官と会談を果たした。今後も緊密につながりを保ち、韓国が伝えてきた金氏発言の分析や、連携を強める中朝への対応を共有しておくことが極めて重要だ。

 北朝鮮は確かに、今年に入り対外的に友好的な態度に出ている。だが、北朝鮮には今も、拉致被害者がいることを決して忘れてはならない。

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