【論説】国内唯一の紙祖神(しそしん)をまつる越前市大滝町の岡太(おかもと)神社と大瀧神社で、5月2日から4日間、「千参百年大祭・御神忌(ごしんき)」が営まれる。

 歴史と信仰、伝統工芸が融合した全国でもまれな祭りである。高齢化や人口減の波に立ち向かい、和紙の産地が未来を志向する節目ともなりそうだ。

 大滝町を含む五箇地区の紙漉(す)きの歴史は、およそ1500年前にさかのぼる。清らかな水に恵まれた岡本川の上流に高貴な女性が現れ、村人に紙の漉き方を教えたとの伝説が残る。岡太神社は、この「川上御前」をまつる。

 後の719年、川上御前をしのび泰澄大師が神仏習合の大瀧寺を建立。16世紀に織田信長の一向一揆討伐で焼失した際、村人が神像や仏像を周辺の寺社に移したという伝承もある。

 その信仰心が厳粛に刻んできたのが毎年春の例祭であり、33年ごとの式年大祭(御開帳)、50年に一度の御神忌(中開帳)だ。2009年の第39回式年大祭を経て、今年が開山1300年の大祭・御神忌となる。

 祭りはご神体を奥の院(上宮)から麓の本殿・拝殿(下宮)に迎える「お下(お)り」で始まる。神仏習合の「法華八講」、紙能舞や紙神楽の奉納、集落を巡行する神輿(みこし)渡御などを行い、江戸時代の記述に残る「月尾渡御」も150年ぶりに復活する。暗夜の参道を幻想的に帰る「お上(あが)り」まで、和紙の里は神とともにいる喜びに浸る。

 神事を担うのは紙漉きをなりわいとする人々だ。県和紙工業協同組合の石川浩理事長が「祭りは人の力。祭りがあるから人が集まり、地域がまとまる」と話すように結束力の源となってきた。ただ、人の不足は年々厳しさを増す。今回は20〜40代の若手世代を運営の各部門に配置、責任を分担させたという。祭りと共同体としての産業を未来へ継承するためだ。

 越前和紙は近年、国内外の注目を集め、海外の来訪者も目立つ。商品開発と需要開拓では、現代アートとのコラボなど世界を視野に発信している。組合全体で産地診断を行い、課題や強みを認識、ブランド戦略や和紙の在り方まで踏み込んだ行動計画をつくる考えだ。神に寄り添い築いた伝統は、新たなステージに入ろうとしている。

 大祭に向け氏子らは1年半前から、奥の院拝殿や石段の改修、下宮摂社の再建など記念事業に取り組んできた。数千万円に及ぶ経費は、地元はじめ全国の善意の寄付が頼りだそうだ。

 和紙の里を舞台に小説「花がたみ」を書いた福井市出身の作家、津村節子さんは09年の式年大祭を訪れ、本紙にこう寄稿した。「日本民族固有の伝統的な祭が古式のまま伝えられていることに胸が迫り、不覚にも涙を禁じ得なかった」と。祭りの担い手と同様、伝統産業への理解が後世に受け継がれることを願う。

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