【越山若水】政府のある説明資料を読んでいて、おや、と思った。流行の改ざんや捏造(ねつぞう)を見つけた―のではない。「観光客に『刺さる』ブランディング」との表現が目を引いた▼「とがったものが突き立つ」ではなく「感銘を受ける」意を表すのは比喩的用法。「胸に」「心に」などの目的語がなければ、従来は意味が通じなかったはず▼これを単に「刺さる」だけにした表現は、三省堂が行うランキング「今年の新語」で2015年の9位と新しい。行政文書だからといって、お堅いばかりではない▼言葉の意味が加わったり変わったりする現象は珍しくはないが、望ましくない変化はある。今は安倍晋三首相が繰り返している「丁寧な説明」が気掛かり▼何しろ、加計問題などの対応が言葉本来の意味から程遠い。このままでは「ごまかすこと。時間を稼ぐとき政治家が使う」と書く辞書が出ないかと、よけいな心配をしてしまう▼無関係であると示すのは「悪魔の証明」で困難―とは首相サイドの理屈。「ある」なら事例を一つ示せば済むが、「ない」の立証は通常は不可能とされ、この名がある▼そうはいっても、疑惑が持ち上がって既に1年以上になる。首相自身のためにも、説明の手だてを探す時間はあったはず。批判者にも、支持者にもストレスがたまる状態が続いている。首相には、自らの言葉の意味を守る責任がある。
 

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