【論説】朝鮮半島の民族分断を象徴する板門店(パンムンジョム)で10年半ぶりに南北首脳会談が行われ、「完全な非核化」を盛り込んだ「板門店宣言」が発表された。「完全な」が日米首脳の言う「完全かつ不可逆的で検証可能な非核化」を意味するものなら一定程度、評価されるべきだろう。

 ただ、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は直接「非核化」を口にすることはなかった。さらに非核化の具体的な道筋にも触れずじまい。これでは6月上旬までに予定されている米朝首脳会談でトランプ大統領を納得させるには不十分と言わざるを得ない。米朝会談まで温存する構えなのだろうが、今後、水面下の米朝交渉などを通じ、具体的な要件を提示できるか否かが鍵になる。

 金委員長が軍事境界線を越え、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と固く握手するシーンや、宣言の共同発表で文大統領に続き演説した姿、自然な立ち居振る舞いなどは、核・ミサイル開発を推進し、幹部を粛正する指導者像とは異なり、国際社会を驚かせたのではないか。米国との初の首脳会談を意識したとの見方もできる。

 北朝鮮にとっては、体制保証を得ることが最優先なのは明らかであり、南北会談である程度の妥協を見せる必要があったともいえる。「完全な非核化」もその一つだろう。20日の党中央委員会総会で核実験場廃棄などを決定したが、核放棄には言及しなかった。むしろ核保有継続の立場表明との疑念を生んだが、今回の首脳会談でも払しょくされたとは言い難い。「核のない朝鮮半島の実現」は在韓米軍の撤退を求めるものでもある。

 板門店宣言には、年内に朝鮮戦争の終戦宣言をし、休戦協定を平和協定に転換する会談を積極的に推進することも盛り込まれた。文大統領が今秋、平壌を訪問することでも合意した。板門店宣言の全ての合意を「徹底履行する」と約束することで、米国へのアピールにしようとの思惑もうかがえる。

 先月の中朝首脳会談で金委員長は「段階的で歩調を合わせた措置を講じれば、朝鮮半島非核化の問題は解決できる」とした。米国に「段階的」を認めさせ、その都度、見返りを得ようとの腹づもりは変えていないのではないか。

 米韓は、今回の宣言を非核化の確実な出発点にするため、こうした北朝鮮の思惑を分析し、戦略を練る必要がある。文大統領は5月半ばに訪米する予定だ。日本も緊密に連携すべきだ。

 日本にとって「最重要課題」の拉致問題に関しては、文大統領、金委員長双方の演説では一切触れられなかった。2人で語る場もあり、そこで言及した可能性もある。文大統領から詳細を即刻聞くべきだろう。

 拉致問題を含め日本の対朝鮮半島外交は転機に立たされていることは明白だ。中国やロシアは存在感を発揮しようと動きだしている。日本独自の存在感を模索する必要がある。そうでなければ、拉致問題の解決は遠のくばかりとなる。

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