【論説】歴史に興味はあるけれど、文献資料を見ていても大事なところがなかなかつかめない―。そんな印象を持っている人はいないだろうか。これが鳥瞰(ちょうかん)図や平面図、案内図など絵画資料の展示となると圧倒的に分かりやすく、見知った場所も登場して面白い。5月6日まで開かれている福井市立郷土歴史博物館の春季特別展「江戸・京・大坂と城下町福井」は、江戸時代の人々の息遣いを実感できる魅力に満ちている。

 歴史分野に限らず絵画や画像の存在は、資料の理解を大いに助けてくれる。文章で伝えきれない情報も絵画資料は大量に含む。そんな絵画資料に徹底的にこだわった展示は珍しいという。

 展示順路の始まりにある「城下町福井」では、「福井城下眺望図」「越前国古今名蹟考(ここんめいせきこう) 足羽郡下」などが来場者を迎える。絵の中心は城下や足羽山だが足羽川左岸の桃林もアクセントになっていて、「越前国―」の挿絵は花見客も描き込む。この桃林は明治に姿を消し、それを惜しんで市民有志が植えたのが桜だ。

 「江戸」については、浅草寺や両国橋などのランドマークと町並みを精緻に描いた複数の鳥瞰図が見事。江戸城の図面や大名屋敷群の絵図も興味深い。「江戸城本丸表向(おもてむき)絵図」には「松平加賀守・松平越前守部(へ)ヤ」と書き込みがある。この部屋は「忠臣蔵」刃傷事件の舞台「松之大廊下」に面し、見ているといろんな想像が膨らんでくる。

 災害記録を後世に伝えようとした江戸の人々の使命感が分かる展示もある。絵巻「目黒行人坂(ぎょうにんざか)火事絵」は、明和の大火(1772年)の報を受け現場へ急行する火消したち、懸命の延焼防止作業、燃え盛る炎からの退避などが時系列で表現され、動画のような趣だ。

 「京」では、京都旅行好きの人なら、携帯用として作られた案内図などに、お気に入りの名所を見つけることができるだろう。京都が観光都市としても発展した理由に、絵図による情報発信があったことがうかがえるという。「大坂」は、天満橋付近や、京都・伏見との間を結んでいた船着き場のにぎわいが見て取れる「浪華(なにわ)大川眺望図」、蔵屋敷の作業が挿絵になっている「摂津名所図会」など、「水の都」「商都」の活気にあふれる資料が並ぶ。

 展示は、歴史資料としても重要なものばかりだが、同館学芸員の印牧信明さんは「絵に描かれた場所を訪ねた経験があれば、その記憶と江戸期の人たちの思いを重ねることができるはず。気軽に楽しんで」と話す。幕末明治福井150年博の一連の事業開始に当たり、絵画資料を通じて歴史を身近に親しんでみてはどうだろう。

関連記事
あわせて読みたい