引き抜き屋とはクライアントから依頼され、ライバル企業などから社員を“引き抜く”ことを生業とする人たち。いわゆるヘッドハンターである。

 外資系の大手ヘッドハンティング企業というのもあるが、フリーランスの個人として仕事をする人もいるらしく、いずれにせよ職業柄、彼らはあまり表舞台に出てこないので、その存在は実際に会ったことのない私のような者には、どこか都市伝説めいたものとして感じられていた。

 本書はそんなヘッドハンターを主人公に据え、業界の知られざる実態を明らかにしつつ、一人の女性がヘッドハンターとして、人間として成長していく過程を描いた小説である。

 ヘッドハンターはまず、クライアントが求める人物像に近いビジネスパーソンを、ありとあらゆるコネクションから見つけ出していく。適任者が見つかったところで、優秀な人材は既に別の会社でそれなりの待遇で雇われているのがほとんどなので、おいそれと話はまとまらない。ではどうするのか? そこが引き抜き屋たちの腕の見せ所である。そのあたりの技術的なことや業界ならではルールの面白さは本書に詳しく記されているのでここには書かないけれど、要は人を動かす必要があるので、信頼関係が第一なのである。

 主人公鹿子小穂は父が経営するアウトドア用品ブランドの取締役として働いていたが、新しく外からやってきた専務と、経営方針においてことごとく対立、結果として会社を追われてしまう。就職活動の相談相手として紹介された男になぜか気に入られた鹿子は、その男が経営するヘッドハンティング会社で働くことに。特別に口がうまいわけではないし、ビジネスの世界に詳しくもない鹿子は戸惑いながらも、クライアントとターゲット双方の事情と心情に寄り添うことで、少しずつ仕事をまとめていく。そしてそれによって、仕事とは何か、人とは何かを学んでいくのである。

“生き馬の目を抜く”という言葉で表されるような熾烈なビジネスの世界には、必ずしも報酬の額に拘らずに、一回性の人生の中で、本当に自分がやるべき仕事を真剣に求めている人たちがいる。そして彼らが活躍する場所を作りたいと奮闘するヘッドハンターたちがいる。

 もちろんこれは小説の中の話であって、実際のところどうなのかは知らないけれど、読み手に本当にこうであってほしいと思わせるところに、この小説の上手さがある。

(PHP (1)1700円+税、(2)1800円+税)=日野淳

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