【論説】「首相案件」との発言があったなど詳細な面会記録を作成した県職員と、「面談の記憶がない」を繰り返す元部下。文書が残る以上、面談の事実があったと考えるのは火を見るよりも明らかではないか。

 学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡り、首相秘書官らとの面談の内容を記録した愛媛県の文書に関し、安倍晋三首相は衆院予算委員会集中審議で「コメントを控えたい」と論評を避けた。一方で、秘書官のコメントについて「私は上司として信頼している」と述べた。

 加えて「私から指示を受けた方は一人もいないことも明らかになっている」とし、国家戦略特区諮問会議などのプロセスに「一点の曇りもない」と従来の答弁を何度も繰り返すなど、時間をいたずらに空費させるさまは不誠実であり、著しく説得力に欠けると言わざるを得ない。

 愛媛県の文書によると、2015年4月に愛媛県、今治市、学園の3者が官邸などを訪れ、柳瀬唯夫首相秘書官(現経済産業審議官)と藤原豊内閣府地方創生推進室次長(現経産省貿易経済協力局審議官)に面談した。藤原氏は「要請の内容は総理官邸から聞いている」「国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい」と発言。柳瀬氏は「本件は、首相案件」と前置きし「現在、国家戦略特区の方が勢いがある」「自治体が死ぬほど実現したいという意識を持つことが最低条件」などと助言している。

 この面談が、それまで構造改革特区制度で15回も提案を却下されてきた獣医学部新設が急速に動きだす契機となったといえる。2カ月後の6月に県と市が国家戦略特区制度に提案。16年1月に早くも特区指定を受け、11月には52年ぶりに新設を認める方針が決定した。17年1月に学園が事業者認定を受けた。

 注目すべきは、藤原氏の「総理官邸から聞いている」との発言だ。県や市の要請を官邸の誰から聞いていたのか。藤原氏はその後も特区制度を主導。自身は否定したが、内閣府が文部科学省に早期対応を迫る際に「官邸の最高レベルが言っている」と述べたとされている。

 さらには、柳瀬氏の発言の中に、面談以前に首相が学園の加計孝太郎理事長と会食した際に、獣医学部が話題になったとの記述がある。首相は学園の計画を知ったのは、事業者認定した17年1月と再三答弁。長年友人関係にある加計氏とは会食やゴルフの際にも学部に関する話はしていないというが、疑念が残る。

 首相は、財務省の文書改ざんや防衛省・自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)問題などでは官僚に責任を押しつけるかのような構えを見せている。しかし、加計疑惑の中心にいるのは首相自身である。過去の答弁を繰り返すだけでは、国民を納得させられるはずもない。面会があったのか否かを解明しようとする発言も全くなかった。柳瀬、藤原両氏、愛媛県などの当事者を国会招致し、はっきりさせるべきだ。
 

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