【論説】2020年代の完全自動走行を目指す自動運転車。日本では東京五輪・パラリンピックに公共バスを運行する計画を立てている。メーカーの実証実験も世界中で盛んに行われ、開発は急ピッチである。

 自動運転の第一のメリットは安全性の向上だ。交通事故の主因である脇見運転など不注意をなくし事故減少につながる。また高齢化が進む中で買い物や通院などお年寄りを支える足となる。近未来の交通手段としてますます期待が高まっている。

 ところが先月、米国で走行実験中の車両が歩行者をはね死亡させる事故が発生。期待ばかりが先行する現状に警鐘を鳴らす一方、乗り越えるべき課題が多いことを浮き彫りにした。

 ■米死亡事故の衝撃■

 死亡事故は米アリゾナ州の公道で起きた。3月18日、配車サービス大手・ウーバー社の自動運転車が道路を横断していた女性をはねた。車は自動運転モードで走行中で、被害者が夜間に自転車を押していたとはいえ、乗っていた男性オペレーターも防げなかった。対人歩行者の死亡は今回が初めて。自動車業界に大きな衝撃が走った。

 米国家運輸安全委は早速原因調査を始めた。同社はすぐに実験中止を発表し、トヨタの子会社も米国での実験を一時取りやめた。しかも2年前にはテスラ社の半自動運転の車が大型トレーラーに衝突し、運転者が亡くなっている。さらに同年、グーグル社の車が路線バスに衝突する事故もあった。

 アリゾナ州の事故を受け、日本では技術的な課題と同時に、賠償責任や刑事責任を明確にする必要に迫られた。これまで政府や法曹界が運用制度や法整備を検討してきたが、実用化に間に合うか懸念が生じている。

 ■所有者責任が原則■

 自動運転を促進する政府は、3月末の未来投資会議で実用化に向けた制度整備大綱をまとめた。事故の賠償責任は原則として所有者にあり、自賠責保険を活用する。ただシステム自体がハッキングされた場合、盗難車と同じく政府が補償する。

 また原因を解明するため、車両に運転データ記録装置の設置を20年までに義務づけ。自動運転車の安全基準を今夏をメドにまとめる方針だという。安倍晋三首相も詳細な制度設計を急ぐよう指示した。

 しかしこれで準備OKとはいえない。交通事故はさまざまなケースが想定される。また自動運転ゆえ運転者の過失の軽重やシステムの不具合なども吟味の対象となる。最近の模擬裁判では多くの問題が明らかになり、技術開発に比べ法整備の立ち遅れが指摘されている。

 ■重要な社会的合意■

 自動運転のレベルは4段階ある。ハンドル、アクセル、ブレーキのうち一つを自動化するレベル1から、運転手なしで完全自動化のレベル4である。

 中でも自動運転が主で緊急時に人間が支援するレベル3の場合、責任の所在が非常に複雑になる。運転手の脇見や居眠りは従来と同等の責務を負うのか、不注意防止の規制をつくるのかまず検討が必要だ。

 さらに車両構造やシステムの不良、記録カメラの性能に加え車両点検整備や道路管理のミスなど原因が多岐に及ぶ可能性がある。つまり自動車メーカーだけでなく、カメラやシステム開発会社、運行する交通機関、行政まで責任は広範囲にわたる。

 自動運転は道路交通の大きな転換点である。行政や産業界、法曹界、さらに一般市民も含め責任問題や課題対策を議論し、社会的合意を早急に確立する必要がある。

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