【越山若水】ドイツ語に「パンのための学問」という言い方がある。独和辞典には「よい地位や実利のために選んだ学問」「就職だけを目指す勉学」と批判的な説明がしてある▼日本の「文学部」に当たるものをドイツで「哲学部」、オーストリアでは「精神科学部」と呼ぶそうだ。人間そのものが研究対象ゆえ、就職には向いていない▼いわば「食えない学問」である。これに対し食いっぱぐれがないものを「パンの学問」と称する。国語や英文学、日本史などは教師や会社員につぶしが利くからだ▼この話題は言語学者、田中克彦さんの著作「カルメンの穴あきくつした」(新泉社)所収の「文学部不用論」から引用したもの。現代に置き換えれば「パンの学問」は「実学」とほぼ同じ意味だろう▼文科系ならば法学や経済学、理科系の場合は大半の学部が「実学」の範囲に入る。反対に「食えない学問」に分類されるのが、文学部をはじめ基礎系学問や一般教養である▼田中さんは先の著作で、日本の大学にはびこる実学優先、あるいは学生への過剰な就職支援、企業研修の下請け化した現状を悲観し異論を唱えている▼実利を生まない学問は今や無駄とみなされ、残念ながら国がその先頭に立っている。ただ大学生には「パンの学問」ばかり求めるのでなく、人間の根源的な課題に思いをはせてほしい。それが若さの特性だから。
 

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