【越山若水】日本人の桜好きはつとに有名である。花と言えば、何より先に桜を思い出す。和歌や俳句に詠まれた名歌、名句は数知れず。昔も今も人々の心をとらえて離さない▼そこできょうの本紙は桜の特集である。県内各地で咲き誇る美しい景色。カメラマンが腕によりをかけた力作15枚が、ページをめくるたび目に飛び込んでくる▼その圧倒的な迫力を言葉で表現すればどうなるか。「山又(また)山山桜又山桜」。俳誌「ホトトギス」同人、阿波野青畝(せいほ)が詠んだ直感的かつユニークな一句が思い浮かぶ▼阿波野は桜の名所、吉野山がある奈良県の生まれ。先の句は紀伊半島南部、熊野で詠んだという。一帯は今では世界遺産に登録されているが、山また山の聖地に映えるヤマザクラに感動したのだろう▼日本文化の「ものの哀れ」を説いた江戸の国学者、本居宣長にも秀歌がある。「敷しまの倭(やまと)こゝろを人とはば朝日ににほふ山さくら花」。自身の精神性を歌に託している▼日本人である私の心は、朝日に光り輝くヤマザクラの美しさ、麗しさを愛する純粋な心そのもの…。不幸にも後年、国粋主義に利用された歴史がある▼折しもきょうは二十四節気の「清明」。全ての物が清らかで生き生きする時候である。特集写真はヤマザクラよりソメイヨシノが多いが、今まさに花盛り、匂い立つような郷土の桜の絶景をじっくりご堪能あれ。

関連記事
あわせて読みたい