【越山若水】長崎県が送ってくれる広報誌の3月号を読んでいて、対馬に在来の赤小麦があるのを知った。地元の人が種子を保存していたとありタネへの深い愛着が察せられた▼中東が原産地とされる小麦は、弥生時代に中国経由で日本に伝わったらしい。対馬をその中継点の島と考えれば、長い歳月を超えて残る赤小麦はいかにも貴い▼農家はできた作物からタネを取り、翌年に備える。仲間と交換もした。そして、いまに在来品種が残る。それは対馬に限らず日本国中、世界中で繰り返されてきた当たり前の営みである▼ところが、南米の8カ国ではそれが罪になりかねない。「種子(たね)―みんなのもの? それとも企業の所有物」というドキュメンタリー映画の日本版が、理不尽な現実を突きつける▼問題の一端は国際条約や自由貿易協定にある。多国籍企業が開発したタネに知的財産権を認めているので、農家が自家採種したりするのを禁じる法案が出されているという▼日本人には縁遠い話のようでそうではない。稲や麦、大豆のタネを安定供給するよう都道府県に義務付けた主要農作物種子法が廃止されたからである▼民間企業の参入を促すのが目的だというが、いずれ南米のようにならないという保証はない。タネは誰のものかといえば、地球上のみんなの共有財産に決まっている。そういう常識が通じないことが腹立たしい。

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