【論説】パートや契約社員など、非正規で働く人の福音になるだろうか。「無期転換ルール」である。期限のある雇用契約を更新しながら5年を超えて働くと、無期雇用への転換権を得られる。その運用が4月から始まった。

 ルールの目的は雇用の安定化だ。ところが、コスト増などにつながるのを避けるためか、転換時期を迎える前に雇い止めにする企業も出ている。経営環境の厳しさは理解するが、ルールの趣旨に反すると言わざるを得ない。

 ■二極化する企業対応■

 きっかけは、2008年のリーマン・ショック後の「派遣切り」である。業績悪化を理由に各企業は、派遣社員を相次いで雇い止めにした。これを受け、彼らを支援する「年越し派遣村」が開設されるなど社会問題化し、非正規社員の不安定な立場が広く認知された。

 無期転換ルールは改正労働契約法に盛り込まれ、13年4月に施行された。以来5年が経過し適用対象者がこの4月から出てきたわけである。その数は厚生労働省の推計で約450万人に上る。

 企業側の対応は二極化しているとされる。積極的な企業では契約が5年に達していなくても無期に転換したり、勤務時間や勤務地を限定した「限定正社員」に切り替えたりするところがある。

 一方、先行きの仕事量や人手不足の度合いを見極めきれないまま、勤続5年を前に雇い止めに踏み切る例も見られる。改正法の「抜け穴」を突く動きで、ほかにも新規に有期雇用契約を結ぶ際、更新回数に上限を設ける例が目立つ。

 ■不足する周知■

 対応に消極的な企業は何を懸念しているのか。一つには人事管理制度が複雑になることがあるだろう。

 従来なら、無期雇用は正社員で有期雇用は非正社員という二つの区分で済んだ。それがいまや日本の非正社員は4割に拡大しており、ルールの適用後はさらに無期転換社員が加わるからだ。限定正社員も含め、待遇や勤務条件の異なる人たちが職場に混在することになり、その不満から互いの溝を深めかねない。それぞれが納得する制度をつくるのは容易ではない。

 新ルールは、無期雇用を希望する労働者の転換を定めているだけで、正社員に登用したり正社員と同じ賃金にしたりすることなどまでは求めていない。こうした内容が浸透していないのも、企業が前向きになれない一因だろう。

 制度が周知されていないのは働く側も同様で、連合が昨年4月、有期雇用で働く人を対象に実施したアンケートによると、無期転換ルールの内容を「知らなかった」人が84・1%に達した。ほぼ1年がたったが、制度への理解が深まっている保証はない。政府と企業は改めて周知を徹底すべきである。

 ■従来の有期は理不尽■

 半年や1年といった有期契約は本来、臨時に発生する仕事のためのものだが、実態は違う。有期社員の3割は5年を超えて契約を更新し、恒常的な働き手になっている。しかも、いつ雇い止めされるか分からないうえに低賃金なのも現実だ。

 企業にとっては便利な「雇用の調整弁」だろうが、働く側には理不尽といえる仕組みに違いない。これを改め、契約を実態の方に合わせるのが新ルールであり、雇用を担う企業側の社会的責任は重い。

 10月には「派遣期間3年ルール」の運用も始まり、19年度には「同一労働同一賃金」の適用が予想される。日本の雇用や働き方はかつてない転換期を迎えているといえる。

 人手不足の時代、従業員をコストとだけ見なすようでは冷淡な企業と忌避されても仕方がない。雇用側にも新しい労働観が求められる。

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