【越山若水】「天子に戯言(ぎげん)なし」とは、中国「史記」を出典とする故事成句である。天下を治めるような者は、遊び半分で冗談やたわごとを言ってはいけないという教えである▼周の成王はまだ幼く、弟叔虞(しゅくぐ)に飾り玉を与え「おまえを大名に取り立てよう」と言った。記録官が準備をすると王は「あれはふざけて言っただけ」と弁明した▼それを聞いた記録官はたしなめるような口調で答えた。「天子に戯れのお言葉はありません。天子が言われたことは史官が記録し、礼をもって実行するものです」▼結果として成王は叔虞を領主に登用する羽目になったという。たとえ片言隻語でも、上に立つ者の発言はそれほど重いという教訓である。政治家の何げない言葉が大ごとに至った事例は数え切れない▼「私や妻が関係していたということになれば、総理大臣も国会議員も辞める」。森友学園の国有地売却問題で、安倍晋三首相が言い放った啖呵(たんか)を切るような答弁も見逃せない▼財務省による決裁文書改ざんは、くしくも首相が明言した後から行われていた。ただ当時の佐川宣寿(のぶひさ)理財局長は証人喚問でその影響はないと否定した▼「改ざんはひとえに私の責任」と殊勝だが、首相の不用意答弁が「忖度(そんたく)」の引き金になった可能性は消えない。一切の経緯は「刑事訴追の恐れがある」と証言拒否。真相は闇のまま幕引きを図るのは禁物である。

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