FC東京―仙台 後半、ゴールを決め祝福される仙台・石原(中央)=味スタ

 週末に試合を観戦する。そして、試合後には気が置けない仲間との食事だ。Jリーグを楽しむということは、それら全てを含むのだろう。そこで話し合われるのはやはり、お気に入りチームについて。その内容が喜ばしいものであろうと、チームが抱えている問題であろうと、盛り上がる。どのような話題でも楽しめるのは、自分自身が監督になったつもりで「考える」からなのだろう。

 「考える」。試合を見ていると、それが強く伝わってくるチームと、希薄なチームがある。もちろん、全ての監督は常日頃から戦略を巡らせているし、考えることなくプレーしている選手もいないだろう。それでも、試合状況や展開を無視したと感じるプレーを見せられると、「もう少し考えろよ」といった小言が出てしまう。

 そのような観点から見た場合、J1仙台というチームはよく考えながらプレーするチームだという印象がある。試合後の会見における渡辺晋監督の答弁は理路整然としていて、分かりやすい。この明解な言葉で日頃から指導されている選手たちは、何をするべきかを共有してトレーニングを積んでいるのだろう。

 3月3日に行われたJ1第2節。FC東京を1―0で下した仙台の選手たちは、大人の自立したサッカーを見せた。監督の指示をただなぞるのではなく、状況に応じた自分たちの判断で試合をコントロールする勝ち方だ。

 FC東京の本拠・味の素スタジアムは、仙台にとっては鬼門だった。FC東京と過去9戦して1分け8敗。一度も勝利を収めたことがなかった。ところが、渡辺監督はこの心理的な重圧をもポジティブな要素とした。「変えられない過去を嘆いてもしょうがない。われわれは今からのゲームを変えられる。そこにエネルギーを注ごう」。そう言って選手たちを送り出したという。

 対FC東京のためにこの1週間、積み上げてきた対策。しかし、予定通りにはいかないというのが分かったのは試合当日の朝だった。FC東京が戦い方を変えたという情報が入ったからだ。それを受けた渡辺監督からの指示は必要最小限に抑えられた。

 3―4―3のシステムで入った試合。仙台のフォーメーションが、FC東京に効果的ではないというのはすぐに分かった。アウェーということもあり計画通り守備から入ろうとしたこの試合で1トップを務めた石原直樹も、開始直後に違和感を持ったという。

 「前半5分ぐらいでなかなかはまらないというのを、みんながピッチ上で感じた。それで話し合いをして修正できた部分があった」

 そして、「ゲームを進めて行く中で修正できたのは去年と違うところ」とチームの成長を口にした。

 前半の途中にシステムを3―5―2に変更。それでも前半はFC東京に押し込まれた。しかし、慌てはしなかった。左アウトサイドを務めた永戸勝也も「ピンチが続いたところで、みんなで一回シンプルに(ボールを)切ろうという話をピッチの中でしていた。だから、押し込まれても耐える自信はあった」と振り返った。

 劣勢の状況であっても、チャンスは必ず訪れる。そのチャンスをゴールに結びつけたのが、石原だ。身長は173センチと大柄ではない。しかし、体は強く、その使い方も抜群にうまい。後方からの縦パスを簡単に収めてしまう技術は、まさに職人技だ。

 その何でもできる仙台の“スーパーマン”が後半12分、ポジショニングとシュート技術の妙を見せた。右サイドの阿部拓磨のクロスが弾かれたところを左サイドの永戸が拾う。マイナスに折り返された浮き球のパスを石原がハーフボレーで捉えた右足シュート。それは考え抜かれた一撃だった。

 「(永戸)勝也が持ったときに中に入るとCB2人が強いんで下がり気味でもらえるかなと思って」フリーになれるポジションを瞬時に見つけ出した石原が右足アウトサイドにかけたシュートは、右ポストをたたいてゴール内に転がり込んだ。

 1点のリード。それからは仙台が思い通りの試合展開を演じた。前に出てくる相手を、うまくいなして時計の針を進めた。そして、1―0の勝利。終わってみると、名古屋、広島と並ぶ開幕2連勝だ。

 昨年はいい内容のゲームを演じても、必ずしも勝ち点に結びつかなかった。10月14日に川崎と対戦した第29節がその典型だろう。川崎のお株を奪うようなパスサッカーで2点をリードしながらも、後半37分からの5分間で3失点を喫して、まさかの逆転負け。試合後の渡辺監督が「ちょっと理解しがたい結果」と放心状態だったのが今でも印象に残っている。

 あれから5カ月弱。「したたかさ」を目標に掲げる今年の仙台。石原のプレーひとつを取っても、「考える」ことがいかに重要かがよく分かる。サッカーはヘディング以外にも、「頭」をフルに使うスポーツなのだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。

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