フィギュアスケート男子SPで、演技する羽生結弦=江陵(共同)

 フィギュアスケート男子で五輪連覇を目指す羽生結弦がショートプログラム(SP)で高得点を挙げて首位発進した。昨年11月に右足首を負傷し、実戦としてはほぼ4カ月ぶりのぶっつけ本番。故障の後遺症や試合勘などが心配されていたが、驚異の回復力だ。ほぼ完璧な演技で周囲の不安をひとまず振り払った。

 ▽「カミング・バック」

 羽生には何度も驚かされてきた。19歳でソチ五輪の金メダルを獲得した時。その後、4回転ループを世界で初めて成功、演技全体のレベルも高めた。世界最高得点を何度も更新し、限界はあるのだろうかと思わせた。

 その一方で172センチ、57キロの細身の体は何度も悲鳴を上げた。ジャンプの着氷の衝撃も影響するのか、いろいろな箇所を故障している。その都度、予想以上の早さで復帰して大舞台で結果を残してきた。

 ただ今回ばかりは様相が違った。右足首の靱帯(じんたい)を損傷したのはグランプリシリーズ、NHK杯の公開練習だった。腱(けん)と骨にも炎症を起こした。4回転ルッツの着氷に失敗した羽生の右足が、氷上でいびつに曲がっていた。痛々しいシーンがテレビで繰り返し流れた。残酷な映像はもう放映しないでほしい、と多くのファンが願った。

 「残酷」と感じたのは、足首の不自然な曲がり方に対してだけではない。これで羽生の五輪連覇の夢は絶たれた、と思われたからだ。五輪本番に間に合わないかもしれない。本人にもそんな焦りが生じたはずだ。

 約2カ月間も練習できない重大な事故からよみがえった。4回転ジャンプを再開してまだ2週間ほどだというのに、SPでは4回転サルコーから入り、3回転半(トリプルアクセル)、4回転―3回転の連続トーループをよどみなく決めた。高さも回転も十分で出来栄え点も稼いだ。

 SPの得点は自己の持つ世界最高得点(112・72点)に迫る111・68点。演技を終えてリンクから降りると「カミング・バック」とつぶやき、復活を宣言した。羽生の回復力に、再び驚かされる結果となった。

 ▽課題はスタミナ

 平昌入り後は、これまで以上に吹っ切れた様子を見せていた。故障の苦しみからの解放が、もともと前向きな性格をさらにポジティブにさせたのか。それとも、不安を打ち消すために、意識的に強気を装っていたのか。

 試合前の会見などでは「どの選手よりも勝ちたい気持ちが強くある」「クリーンに滑れば絶対に勝てる」「(金メダルを)僕が取ります」と、自らを鼓舞するような自信満々の言葉を発し続けた。

 SPの演技を見る限り、言葉にうそはなかった。しかし「絶対王者」の真価が問われるのはここからだ。フリーに向けてはやはり練習期間や実戦の不足からくる不安は拭えない。

 第1の課題がスタミナだ。演技時間が2分40秒(±10秒)のSPに対し、フリーは4分30秒(同)の長丁場。羽生の体は故障前よりさらにスリムになったようにも見える。ジャンプを後半にも多く組み込むプログラムに、体力が耐えることができるか。

 ▽4回転の数と成否

 4回転ジャンプの構成が第2の焦点になる。今季の羽生は、ルッツを成功させて4回転を4種類に増やしたが、故障の引き金となったこともありルッツは回避するという。残るループ、サルコー、トーループの3種類を跳ぶのか、慎重に2種類の組み合わせにとどめるのか。

 4回転は基礎点が高いだけ大きな得点源だが、失敗のリスクも大きい。SP2位のフェルナンデス(スペイン)とは4・10点差。4回転1個の成功、失敗で逆転可能な差だ。個々の技術の出来栄え点や、演技構成点でも高得点をたたき出せるだけに、その決断が焦点となる。

 66年ぶりという五輪2大会連続金メダルの偉業に向けて、楽しみが多い分、懸念要素も少なくない。羽生の類いまれな集中力にもう一度、驚いてみたい。(共同通信=荻田則夫)

関連記事