【論説】「働き方改革を断行いたします」と、通常国会冒頭の施政方針演説で言い切った安倍晋三首相が、厚生労働省の調査データを巡り瑕疵(かし)があったとし、答弁を撤回、陳謝するはめになった。さらには厚労省が残業時間の規制を先延ばしする修正案を提示するなど、法案の実効性が問われる事態。野党が「働かせ方改革」と反発を強めるのも当然だ。

 政府は残業規制とともに、年収の高い一部専門職を労働時間規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」導入や、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決められた時間に基づいて賃金を支給する「裁量労働制」の拡大などを盛り込んだ8法案を一本化して今国会に提出するとしている。

 首相が撤回、陳謝したのは1月29日の衆院予算委員会で行った裁量労働制に関する発言。厚労省の調査を基に裁量制の労働者は1日当たり9時間16分、一般労働者は9時間37分働いていると言及。「裁量制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者より短いというデータもある」と答弁していた。

 しかし、野党議員が調査の不自然な点を指摘。政府側は「データを精査する」と繰り返してきた。14日の衆院予算委で再度の指摘に対して、首相はようやく「私の答弁を撤回するとともに、おわび申し上げたい」と非を認めた。

 首相は、裁量労働制による労働時間の縮減効果をアピールしたかったのだろうが、間違ったデータの使用はもってのほかだ。法案作成の前段にあたる有識者会議などでも使われていたとすれば、法案の根拠自体が崩れることにもなる。「時間によらず、成果で評価する制度」と説明される裁量労働制だが、企業にとっては賃金を抑制し、長時間働かせることができる制度にもなる。それだけに国会での徹底論議が求められる。

 高プロ導入では年収1075万円以上の研究開発職や金融ディーラーなどは残業規制対象から外れる。政府は「対象は限定される」と説明するが、野党は「残業代ゼロ法案」と反対する。裁量労働制の対象業種拡大に至っては、影響を受ける人がどの程度に上るかもはっきりしていない。首相は「過労死や過労自殺の悲劇は二度と繰り返さない」と言っていたはずだ。

 一方、残業規制に関して厚労省は中小企業に限り、適用を1年延期する修正案を自民党に提示した。人手不足にあえぐ中小の窮状に配慮したとするが、そこで働く人たちの期待を裏切るものではないか。

 さらには「同一労働同一賃金」により、パートなど非正規の待遇改善を図り、生産性の向上は無論、経済成長につなげていくとする。指針案では通勤手当などでは格差是正が図られるものの、基本給やボーナスの面は労使の協議に委ねられる可能性が高いとされる。首相は「『非正規』という言葉を一掃する」と繰り返し訴えてきたが、ここでもまた掛け声先行の懸念が拭えない。

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