【論説】トランプ米政権が新たな核戦略指針「核体制の見直し」(NPR)を公表した。米国だけでなく、同盟国が通常兵器など核以外による攻撃を受けた場合にも核で報復する可能性を排除していない。米国はこれまで国際的な軍縮・不拡散を主導してきた。核兵器の使用条件を緩和することは「核なき世界」を掲げ、核の役割低減を目指したオバマ前政権の方針を大きく転換する危険な選択だ。

 驚くべきは、日本政府が「抑止力が強化される」と高く評価したことである。唯一の戦争被爆国が「核廃絶」を叫びながら、核軍拡に加担するようなメッセージだ。米国追従を強める安倍政権の外交・安全保障政策を如実に反映している。

 公表は前政権下の2010年以来。特徴は爆発力が低く「使える核兵器」とも称される小型核の開発を明確にし、「柔軟な核運用」を打ち出したことだ。

 ロシアや中国への対抗姿勢を鮮明にし、さらに北朝鮮やイランなどの動向も想定する。最大の狙いは関係が悪化しているロシアである。同国は小型核を含め戦術核を約2千発保有しているとされ、有事使用を辞さない核戦略を描いているとみられている。

 核・ミサイル開発を急ぐ北朝鮮に対しては「米国や同盟国を核攻撃すれば、体制は終焉(しゅうえん)する」と威嚇。北の「核武力完成」宣言に「私の核のボタンの方がはるかに大きく強力だ」と述べたのと同様、文言はいかにもトランプ流だ。

 新方針は核の使用を「死活的利益を守るための極限の状況」に限定した前政権の方針を踏襲してはいる。だが、核以外の攻撃に対する報復も含んでいるのは明らかな軍拡政策で、「冷戦回帰」につながる。

 NPRに掲げた小型核は広島型原爆の数分の1の爆発力を持ち、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)への搭載方針を明記した。現在搭載中の核弾頭は原爆の最大約30倍の破壊力。極限的結末を迎えるリスクを考えれば非現実的だ。それゆえ「より現実的な選択肢」を採用し、ロシアへの抑止力強化を狙っている。

 しかし、核は核だ。局地的な戦闘を想定するが、相手国は核開発を一層進めるだろう。核使用のハードルも下がる一方だ。これでなぜ抑止力が高まるのか。

 トランプ氏は先の一般教書演説で「比類なき力」を備えると宣言した。それが「力による平和だ」というのでは説得力がない。

 NPRでは核の先制不使用政策の否定や包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を目指さない方針も明記。さらに前政権が退役させた海洋核巡航ミサイルの再開発も打ち出した。

 米政権の危うい核政策に河野太郎外相が「高く評価する」と公言したのは、米国の「核の傘」に依存する同盟国としての論理であろう。だが、それでは日本が任じてきた核保有国と非核保有国の「橋渡し」役になるはずもない。「敵国」からすれば、日本は核保有国にさえ映るだろう。被爆国が目指す道ではない。

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