【論説】「30歳の成人式」という取り組みをご存じだろうか。民法で大人と定める20歳の門出を祝う正式な成人式とは異なり、社会経験を積んだ30歳を「本当の大人」と捉え、旧交を温めながら郷土への貢献を考えるイベントだ。全国各地でジワジワと広まっている。

 行政主導ではなく、地域の若者が自発的に行うのが特徴で、町の活性化や被災地の復興をテーマに話し合う。また同地域、同年齢を基にしたビジネスや婚活の機会に生かすなど目的はさまざまだ。

 県内でも本年度既に3カ所で開催。3月には4件目となる「30歳の成人式」が福井市を会場に、しかも全県域を対象にした初めての交流会となる。

 ■而立、30にして立つ■

 「吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず…」。「論語」為政にある孔子の言葉である。

 私は15歳で学問の道に入ろうと決意し、30歳で基礎を確立し自立できた。40歳になって心の迷いがなくなった…。以来「而立(じりつ)」は30歳の異名とされ、自己の見識を確立し精神的に独立する年頃とされる。

 この考え方が背景にあるのだろう。インターネットには作家の村上春樹さんらの「30歳成人説」が紹介されている。「20歳代はいろんな経験をしてみて、30歳になって人生の進路を決めればよい」。つまり20歳では精神的にも社会的にも幼く、30歳こそが大人として自立すべき時期というわけだ。

 ■地域に目を向けよう■

 では「30歳の成人式」の始まりはいつ、どこなのか。発端は民間有志の企画とされ定説はないという。あれこれ調べてみると、2012年3月の京都府与謝野町を皮切りに、北九州市や横浜市中区、さらに東日本大震災の被災地・福島県いわき市などの事例が見える。

 現在確認できるのは、約50の自治体で実施済み。ほとんどは若者グループの実行委が主催。中身を見ると、地域の高齢化を案じ30歳の自分たちに何ができるか討論したり、自治体に具体的な提言をする。また被災地を盛り上げ復興に役立ちたいという思いを共有する―など地域に目を向けるテーマが多い。

 県内の「30歳の成人式」を支援する県若者・定住支援課も意図するところは同じだ。30歳は既に10年近く社会人キャリアがあり、会社でも中堅的な存在。結婚し家庭を持った人もいる。ちょうど自分の住む地域や出身地の故郷のことを考える絶好のタイミングと見ている。

 ■福井定住の契機にも■

 県は地域活動への参加を促す事業内容を助成の条件に指定。同級生と親交を深める中で、地域の課題解決を模索したり、県外の若者には福井定住のきっかけにしてもらう。

 既に昨年8月に越前市、10月に福井市円山地区、今年1月に小浜市で開かれ計174人が参加した。3月31日には福井三十路(みそじ)式実行委が福井市のホテルフジタで開催。福井の伝統工芸の雑貨販売やお笑いトークショーなどを計画している。

 もちろん人口減少社会で、地元にUターンする若者の数が増えるのはうれしい。現に16年度の県内への移住相談は6571件、同じくU・Iターンは623人といずれも増加し、PR効果は順調といえる。

 ただ県内の地域づくりの現状を見ると、若者が関与する機会は少なく、ほとんど50〜60歳代の年配者が運営の主体。地域を思う若い力が活動に加わればまさに百人力。地域の将来にも希望の光が差し込む。「30歳の成人式」が今後も継続され、郷土愛に満ちた若者が定着することを期待したい。

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