【論説】スポーツに政治を持ち込むことは、健全なスポーツマンシップからも、本来許されないことだ。開幕した韓国での平昌(ピョンチャン)冬季五輪は、きな臭くないか。核・ミサイル開発で緊張状態が続く北朝鮮問題が重くのしかかっている。南北の融和は政治的演出が色濃く、開会式に出席した安倍晋三首相も五輪より北朝鮮への圧力強化や慰安婦問題が主眼だ。いずれも重要課題だが、五輪精神を生かし、世界平和と融和を誓い合い実践していくべきではないか。

 北朝鮮が2大会ぶりに冬季五輪に参加し、開会式で2006年トリノ冬季大会以来の合同行進を行った。南北合同チームもアイスホッケー女子で実現した。

 国連安全保障理事会は開会式前日の8日、安保理制裁決議で渡航禁止対象になっている北朝鮮の高官について一時除外を決定。北朝鮮は金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の実妹で影響力を強める金与正(キムヨジョン)氏らを派遣した。さらに高級品の禁輸措置も一時的に解除された。米国務省報道官は「米国は関わるつもりはない」と判断を韓国に委ねている。

 こうした一連の対応は極めて異例だ。これを端緒に緊張緩和が進むなら五輪の存在価値が高まろう。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が「朝鮮半島に明るい未来への扉を開く」と祝意を示したことでも分かる。

 しかし、北朝鮮の狙いは五輪を利用し韓国との雪解けを強烈に演出、世界にアピールすることにある。半島の民族意識醸成へ芸術団や応援団の派遣もあり、見え見えの手練手管であることは確かだ。

 透ける思惑は得意の「ほほえみ外交」による日米韓の分断にある。3カ国は、核実験とミサイル開発を放棄しない北朝鮮に対し、経済的圧力の「最大化」を目指してきた。この包囲網をいかに突破するか。北朝鮮は五輪便乗の「最大化」を図ったことになる。

 その一方で、8日には人民軍創設記念日を同日に移して軍事パレードを強行。対米核武装宣言通り、圧力に屈しない姿勢を見せつけた。緊張緩和につながる道筋は見いだせない。ただ、韓国のスタンスに変化が出る可能性も否定できない。

 安倍首相が訪韓した意味はそこにある。韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領にくぎを刺すことであり、首相は日米韓の協力関係が揺るぎないことを強調。南北融和へ急傾斜しないようけん制し、3カ国の結束を確認した。

 慰安婦問題では、日韓合意を巡って日本側に謝罪を求める韓国の新方針を拒否し、合意の着実な履行を求めた。

 しかし、会談の成果を焦る首相と文氏との間に乖離(かいり)があるのも事実だ。五輪開催で高揚感に満ちている中での政治会談には違和感もあるだろう。重要なのは未来志向を確かなものにすることだ。北朝鮮対策も圧力一辺倒では最重要課題の拉致問題が進展しない。対話による相互理解こそ恒久平和への入り口だ。オリンピズムはそれを教えているのではないか。
 

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