【論説】これが民意なのか。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設が最大の争点となった名護市長選は、移設を推進する安倍政権が全面支援した無所属新人の渡具知武豊氏が初当選した。

 移設反対を訴え続けてきた現職の稲嶺進氏は3選を阻まれた。「地元の民意」を根拠に「オール沖縄」で戦ってきた翁長雄志知事にとっても大きな痛手。秋の知事選への影響は必至だ。

 あまりに異様な選挙だった。安倍政権は菅義偉官房長官や与党幹部、有力議員を続々投入。国政選挙以上に力を入れた。

 地元振興へ交付金をちらつかせ、組織力を駆使して業界団体の締め付けを図った。辺野古で沿岸工事が進む中、新基地建設反対の主柱を失えば、民意はより移設容認に傾くとの思惑があったのだろう。

 地元紙が市長選前に実施した世論調査で、辺野古移設反対は66%を占め、賛成は3割にも届かなかった。

 だが、それは「世界一危険」とされる普天間飛行場の固定化につながる。安倍政権は「普天間の危険性除去には辺野古移設が唯一の解決策」としており、民意は苦しいジレンマを抱えながら揺れたのも事実だ。

 渡具知氏は辺野古移設の賛否に言及せず「国と県が係争中なので注視していく」と争点化を避けた。訴えたのは現実的な経済活性化や教育、福祉の充実だ。稲嶺市政下で地域振興はままならず、閉塞(へいそく)感打破へ政府との対話姿勢をアピールしたことが奏功。前回自主投票だった公明党の推薦を得て勢いを増した。

 安倍晋三首相は選挙後、辺野古移設に関し「市民の理解をいただきながら、最高裁判決に従って進めていきたい」と強調した。まさに「民意を得た」との判断であり、政府は工事を加速させるだろう。

 だが、渡具知氏と公明党県本部が交わした政策協定には「日米地位協定の改定及び海兵隊の県外・国外への移転を求める」と明記されている。これは政府方針とは相反するものだ。「争点外し」で勝利し、移設容認に動けば、市民を欺いたことになりかねない。

 渡具知氏は移設受け入れが条件とされる再編交付金を「特段断る理由はない」として受け入れる意向だ。

 辺野古移設計画が浮上して21年。厳しい選択を迫られてきた地域は国の露骨な「アメとムチ」で民意の分断が深まる。こんな手法で沖縄が抱える基地問題が抜本解決できるだろうか。

 米軍機の事故・トラブルが続発し、「それで何人死んだんだ」と国会でやじを飛ばした自民党の松本文明副内閣相に対し、安倍政権は慌てて辞任させた。

 沖縄が希求する真の平和は基地撤去しかない。

 基地負担軽減に関し、首相は2日の衆院予算委で「移設先となる本土の理解が得られない」と述べた。政府は基地集中を軍事上の理由と強調してきたが、政治的な理由であることを初めて認めたのだ。「県民の気持ちに寄り添う」という言葉は何の説得力もない。

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