【論説】それは「8050(はちまるごーまる)問題」と呼ばれる。数字は「80代の親と50代の子」を意味する。

 若者に特有の問題とされてきた「ひきこもり」が中高年になっても続き、老いた親が心理的にも経済的にも子を支えきれなくなっている。その深刻さを象徴的に言い表している。

 ひきこもりは「仕事や学校に行かず、家族以外の人とほとんど交流せずに半年以上、自宅にいる人」と定義される。その状態から抜け出そうと当人や家族が苦しんでいるのは、容易に想像がつく。社会的な理解と支援を急ぎたい。

 ■「40歳以上で16万人」■

 内閣府は2018年度、40~59歳を対象に初の実態調査をする。NPO法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」が「40歳以上のひきこもりは16万人以上」と緊急提言するなど、関係団体の声に応えた格好だ。

 学校生活や職場に適応できずひきこもる若者の多いことは、以前から社会問題として認識されていた。内閣府はこれまでに10、15年の2回にわたって全国調査を行い、15年調査では15~39歳のひきこもりが10年調査より約15万人少ない約54万人と推定していた。

 15年調査は同時に、ひきこもる期間が長期化している現実も明らかにしていて、ひきこもりが中高年の問題にもなりつつあるのをうかがわせた。その意味では後手に回った印象は否めない。対応の遅れを取り戻すためにも、今回の調査を実効性のある公的支援への第一歩にしてもらいたい。

 ■「自己責任」の風潮■

 ひきこもりが長引き、年齢が高くなるほど、当の本人は孤立を深め社会復帰が難しくなる。問題は若者以上に深刻だ。

 支える親の悩みも深い。高齢でも、働けるうちはまだまし。年金暮らしになると途端に生活が苦しくなる。何より出口の見えないのがつらい。

 こうした実態は、まだ数少ない報道などで知られるだけである。家庭の事情を知られたくない人が多く、表面化しにくいのである。

 背景には「自己責任」をことさら強調する風潮がある。

 ひきこもりの原因やきっかけはさまざまだが、学校や職場環境や対人関係で悩んだ末に、という人は少なくない。これに対し「コミュニケーション能力が足りない当人の責任」などと決めつける声がある。これでは当人や家族を排除するばかりで、何の解決にもならないのは自明である。

 ■「就労が最良の薬」■

 先日の衆院予算委で安倍晋三首相は、日本の企業は新卒の一括採用が普通なので施策を誤れば一遍に就職氷河期になる、という趣旨の答弁をした。柔軟性を欠く企業の採用慣行を、図らずも指摘した発言だった。

 ひきこもりの問題に詳しい精神科医は、就労は「万人向けの処方箋ではないが、最も良い薬になり得る」と述べている。だが、企業の側に中途採用の受け皿は乏しい。ひきこもりの人の社会復帰が難しい原因の一つでもあるだろう。

 一方、人手不足に悩む東京の中小企業は以前から、ひきこもり経験者の就労体験を受け入れ数人を採用した。その社長は「1人1人の事情に合わせ、時間をかけて育てるのが担い手確保の近道。変わらないといけないのは企業の方だ」と言う。傾聴に値する言葉だろう。

 もちろん、どうしても組織になじめない人は在宅で生計を立てる道も保障されるべきだ。それには、失業保険や年金などサラリーマン偏重ともいえる制度の見直しが必要になる。

 多様な人材がいきいきと活躍できる社会をいかにつくるか。ひきこもりの問題は、そんな問いをわれわれに突きつけているといえる。

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