【論説】「私たちは一つのチーム、一つの国民、一つの家族だ」と、この人が訴えても大半の米国民の心には響かないはずだ。

 トランプ米大統領が初の一般教書演説を上下両院合同会議で行った。表面上、過激発言や放言は封印したものの、「米史上最大の減税を立法化した」と、唯一と言ってもいい実績を誇示。一方で、自らが国家の分断を招いたにもかかわらず、結束を呼び掛ける様にはあきれるしかない。

 声高に強調した大型減税も、恩恵を受ける企業がどう設備投資や人件費などに振り向け、経済の好循環を生むのか見通せない。高所得層への減税効果は期待できる。ただ、中低所得層には期間は限定的との指摘がある。新たな国民の分断につながる懸念もある。

 昨年2月の施政方針演説では「財政再建の状況はここ65年で最悪の水準だ。前政権は借金を積み重ねた」と批判した。しかし、今回の減税で財政赤字が巨額に膨れ上がる可能性も高く、大統領選で掲げた公約に固執する余り、前政権を超える失政と化す恐れも否定できない。

 さらには、1兆5千億ドルという巨額のインフラ整備も掲げた。実現には共和・民主両党の支持が欠かせず、演説でも双方に協力を呼び掛けた。だが、保守とリベラルの分断をあおってきたのはトランプ氏自身だ。ツイッターで民主党幹部を中傷するなど党派対立に拍車を掛けてきた経緯がある。11月の中間選挙を意識し、実績を積み重ねたいのだろうが、党派の溝は容易には埋まらない。選挙結果次第ではレームダック(死に体)状態がさらに深刻化しかねない。

 「米国第一」「ディール(取引)」主義を掲げるトランプ氏にとって、歴代政権、とりわけオバマ前政権との違いを際立たせることに躍起になってきた。真っ先に取り組んだのが環太平洋連携協定(TPP)や地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」からの離脱だった。

 それは一般教書演説にも色濃く反映されている。製造業の米国回帰や移民対策の強化など国内政策は無論、対外政策でも鮮明だ。

 北朝鮮に対しては「最大限の圧力をかけ続ける」とし、イランなどとの対決姿勢も打ち出している。中国とロシアを「米国の国益に挑むライバルだ」と称し、不公平貿易の是正などに取り組む姿勢を強調。果ては核戦力の近代化と再建にも言及し、「核なき世界」を模索したオバマ前政権の姿勢とは一変させた。

 支持層である白人向けのアピールであり、銃所持を認める法律を「守る」と宣言したのもそのためだ。「一つの家族」と国民的和解を呼び掛けても、ツイッターなどで“衣の下に鎧(よろい)”が透ける為政者だと米国民は既に見透かしているのだ。

 一方で、これまで金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長への融和姿勢やTPPへの回帰に言及してきたが、今回はひと言も触れず、不安定な印象も拭えない。やはり最大のリスクはトランプ氏自身だと言わざるを得ない。

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