【論説】都合のいい政策だけを語ることが施政方針演説なのか。安倍晋三首相は持論の憲法改正や働き方改革、人づくり革命など主要政策を雄弁に語ったが、国家政策の根幹を成すエネルギー政策にはついぞ触れなかった。

 とりわけ原子力政策では福島の復興を強調したのみ。困難を極める東京電力福島第1原発事故対策は原発回帰に走る政権にとって「不都合な真実」なのだろう。野党が目指す「原発ゼロ」が主要な論点になり得るか、国会審議を注視したい。

 ■追い風と逆風交錯■

 わが国は事故前、54基の商業炉を抱えていたが、事故で約2年、稼働ゼロが続いた。2013年に原子力規制委員会による新規制基準が施行され、審査を申請した原発は26基。これまで7原発14基が合格し5基が再稼働している。一方で福島1の6基含め14基が廃炉となる。

 政府は14年にエネルギー基本計画を閣議決定。原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、30年度の電源構成見通しで原発依存度を20〜22%とした。

 目標達成には25〜30基が必要だが、15基程度は「原則40年」を超え最大60年まで延長が必要になるとの指摘もある。だが、膨大な対策費は大きな負担になるのは確かだ。関西電力は出力100万キロワット超の大飯原発1、2号機の廃炉を決めた。

 そんな中で、関電や日本原電は県内での新増設やリプレース(建て替え)に意欲を見せる。狙いは基本計画への組み入れである。経済重視の安倍政権の原発政策が追い風になるとの算段だろうか。肝心の民意は逆風が強まっている。

 ■世界は自然エネへ■

 原発の建設費は事故や世界的な規制強化で従来の3倍、1兆円規模に膨らんだとされる。廃炉を含めた巨額のコストや裁判の司法リスクも経営を圧迫、「原発は割安」とする政府、業界のアピールは説得力を欠く。

 経済産業省は年内めどに基本計画を改定する方針だ。焦点の新増設に関し、首相は「想定してない」としたが「現時点で」と逃げを打った。原発依存度の「可能な限り低減」には道筋も示さず、エネルギー改革に本腰を入れないのは無責任だ。

 世界を俯瞰(ふかん)すれば、地球温暖化防止へ向けたパリ協定が重圧となる。30年度に政府が目指す再生可能エネルギーの電源構成比率は水力を含め22〜24%。温暖化の一因になる火力(石炭・天然ガス・石油)は56%程度となお高い依存度を示す。

 発電コストの急速な低下により、世界の自然エネルギーは総発電量の25%前後まで高まってきた。日本は16年度で約15%にとどまる。高い目標と実行は世界の要請でもある。

 ■将来像を描けるか■

 共同通信社の世論調査では、全原発即時停止に49・0%が賛成。反対の42・6%を上回る。本紙調査でも「即ゼロ」「徐々にゼロ」は59・4%。流れは脱原発に向いている。

 首相はこうした世論を背に、不人気政策への言及を避けているのだ。演説で核のごみや中間貯蔵、核燃料サイクルなどには触れもせず、代表質問では従来答弁の繰り返し。それでいて日立製作所が英国で計画する原発事業に支援を検討するなど、原発ビジネスに前のめりだ。

 明らかな政策矛盾を突くように、立憲民主党は30年を目標にした原発ゼロ基本法案を「3・11」までに提出する構え。与党公明党を含め各野党も新設を認めず、脱原発の方向にある。

 小泉純一郎元首相らが顧問を務める民間団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」も50年までに自然エネ100%とする基本法案の骨子を発表した。

 だが、必要なのは小手先の修正でも、人気取りのスローガンでもない。実効性ある議論だ。二項対立を超えて日本の未来像を探り、果敢に突き進む気概と覚悟があるかだ。

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