【越山若水】先の21日が忌日だった杉田久女に「橇(そり)やがて吹雪の渦に吸はれけり」の句がある。昭和初期にかけての俳人だから、詠まれた橇は遊具ではない。生活の道具だった▼首都圏に大雪が降り、交通網が大混乱した。せいぜい20センチほどの雪でこうなる大都市は、気の毒だがもろい。そのまちなかを、スキーで歩く人をテレビで見た▼不謹慎なようでもあり、どこかユーモラスでもあった。その点、久女の描いた情景はすさまじい。橇が人もろとも渦の中にかき消える。「白魔」というほかはない▼橇、吹雪で連想するのは「八甲田死の行軍」である。陸軍の青森歩兵第5連隊が青森・八甲田山で遭難し、210人のうち199人が凍死した。この悲劇へ出発したのが、116年前のきのうだった▼極寒というのに貧弱な装備で、地元民が止めるのも聞かなかった。途中で猛吹雪に見舞われ、引き返す判断を迫られたのに誤った。そんな事実が教訓として伝えられている▼日本海側にまた、厳しい寒波がやってきたようだ。福井県も来週まで、予報欄に雪だるまマークが並ぶ。しつこく居座る気のようだから厳戒が必要だ▼雪に変わりはないじゃなし、と歌う懐メロがある。どの雪も解ければ同じという以上、正しい詞は「あるじゃなし」だ。でも当方には雪が同じとは思えない。吹雪や圧雪は怖い。車という現代の橇をかき消す。

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