【論説】安倍晋三首相が「国難」と称し昨秋、衆院の解散、総選挙まで踏み切った「少子高齢化」と「北朝鮮情勢」。通常国会冒頭の首相施政方針演説では、少子高齢化は冒頭で再度「国難」として掲げたものの、北朝鮮に関しては後半部分でわずかに触れただけだった。

 首相は今年9月の自民党総裁選で3選を目指す上で、「働き方改革」や「人づくり革命」「生産性革命」などを前面に出し、実績優先や低姿勢を印象づける狙いが透ける。一方で北朝鮮問題では、圧力強化を叫ぶ以外に策がなく、後回しにせざるを得なかったのが実情だ。南北対話を注視しているのだろうが、他国頼みにしてきた立ち位置が問われているともいえる。

 国民受けする政策や成功エピソードを並べ、「今こそ新たな国創りの時だ」「新しい時代を共に切り開こう」と呼び掛けたが、財政健全化に向けては、プライマリーバランス黒字化の達成時期や裏付けとなる具体的計画は「この夏までに」と述べるにとどまった。教育無償化や大学改革もしかり。まともな国会議論ができるはずがない。

 首相の宿願である憲法改正については最後に触れ、「50年、100年先の未来を見据えた国創り」として各党に具体的な改憲案を示すよう求めた。年頭の記者会見で「今年こそ、憲法のあるべき姿をしっかりと提示していく」と意欲を示したのとは打って変わって抑えた印象だ。

 改憲に前向きとされた希望の党が自民党案に難色を示すなど、野党が反発を強めている。与党・公明党も性急な動きにクギを刺す。前のめりの姿勢を見せるのは得策ではないとの判断ではないか。

 国民の間にも改憲を急ぐべきだという声は高まっていない。直近の世論調査では安倍首相の下での改憲に54・8%が反対し、前回調査から6・2ポイント増加したというから、首相の思いに対して民意は逆行している状況にある。

 防衛力の強化では、首相自らが地上配備型迎撃ミサイル「イージス・アショア」、長距離巡航ミサイル「スタンド・オフ・ミサイル」という具体的な装備名を挙げ、年末の「防衛計画の大綱」見直しに関して「従来の延長線上」にはない大幅な改定を強調した。「専守防衛が大前提」としたが、徹底論議が必要だ。

 長期政権だからこそ取り組むことが可能な課題がある。財政健全化や社会保障制度の見直しなどだが、安倍政権は先送りしてきた。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」など国民不安は高まるばかりであり、抜本的な改革案を示すべきだ。

 野党の分裂で「1強他弱」の構図が強まる中、自民党は昨秋の臨時国会に引き続き、野党の質問時間削減を要求している。党首討論の再開では、予算委員会などへの首相の出席を減らすことも想定している。「1強」のおごりとしか言いようがない。問題のある政策を数の力で押し通す愚行は許されない。

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