【越山若水】勝海舟と言えば、幕末を舞台にしたドラマに欠かせぬ重要人物。西郷隆盛との交渉で江戸城の無血開城を成功させ、明治維新後には海軍の発展に大きく貢献した▼しかし政治からあっさり身を引き、自邸で歯に衣(きぬ)着せぬ時局批判や辛らつな幕末維新の人物評価などを行った。一連の言行をまとめたのが「氷川清話」である▼数多くの苦言や名言を生んでいるが、特に政界で広く知られる言葉がこれである。「政治家の秘訣(ひけつ)は、ほかにはないのだよ。たゞ『正心誠意』の四字しかないよ」▼施政方針演説を行った安倍晋三首相も、恐らくは勝海舟ら先人の言動を頭の片隅に置いていたに違いない。150年を迎えた明治維新を念頭に「新たな国創りの時」と訴えたのが何よりの証拠だろう▼演説を聞けばよく分かる。「日本は『国難』と呼ぶべき危機に直面している」と分析。「働き方改革」「人づくり革命」「生産性革命」などに全力を傾注すると威勢がいい▼意欲満々の決意に勝の助言を思い出す。「方針を固定するな」。天下のことは予測が難しく、丸や三角のものを四角い箱に入れるのは苦労するからだ▼「おのれに執一(しついち)の定見を懐(いだ)き、これをもつて天下を律せんとするのは、決して王者の道でない」と自己執着を戒める。いよいよ国会論戦が本格化する。首相に耳障りな質問も排除せず、誠意ある説明が肝心である。

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