【越山若水】小説の題材に事欠かないせいか、鎌倉前期に成ったとされる説話集「宇治拾遺物語」は近現代の多くの作家に愛される。その一人、芥川龍之介は「芋粥(いもがゆ)」を書いた▼元の説話は「利仁芋粥の事」。平安時代の代表的な武士として知られる藤原利仁が主人公だ。そして、いまの敦賀が舞台。一県民として大いに興味をひかれる▼宮中のうたげで食べ残しを下げ渡された下級の役人が「芋粥を腹いっぱい食べたい」と嘆く。聞きつけた利仁が誘って領地の敦賀へ連れていく―。そんな筋書きだ▼圧巻は役人が目にした芋粥調理の場面。大きな釜が五つ六つもたかれ、10人ほどの若侍が山と積まれた山芋を刻む。さらに白絹の着物姿の少女たちが、希少な甘葛(あまづら)を大量に注ぐ▼京にない豪奢(ごうしゃ)である。この説話を好む小説家の田辺聖子さんは「王朝末期になると(略)地方に新しい勢力や文化が生まれつつあることをまざまざと感じさせる」と書いている▼頼もしいことに、敦賀市粟野南小の児童たちが説話にちなんだスイーツの商品化に取り組んでいる。先日の嶺南版には試食会の様子が載っていた▼スイーツとは、目の付けどころが面白い。昔の人にとって甘いものは大変な貴重品だったから。説話に出てきた「甘葛」もみやこで大事にされた甘味料だ。使われた植物は分からない。でもツタの根から作れるとか。覚えておいてね。

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