【越山若水】石油ストーブによる火災が年に1千件ほども起きていた50年前、世間の耳目をひく公開実験が行われた。初期消火にいいのは、毛布か水か―▼切実な問題だったのに加え、官と民の対決だったのが注目される理由だった。“毛布派”は東京消防庁、“水かけ派”は雑誌の「暮(くら)しの手帖(てちょう)」。実験は緊迫した▼「水と油」だから「水は禁物」と、いまでも信じている人が多いだろう。てんぷら油の火災では事実その通り。だが、この実験は手帖の主張に軍配が上がった▼ここに一つの教訓がある。たとえ火災の専門家集団であっても、あらゆる事例を検証し尽くしているわけではない。だから素人が専門家の唱える常識を超える場合もあることだ▼暮しの手帖には、それまで続けてきた商品テストの実績があった。ソックスをはじめマッチ、鉛筆、アイロンといった日用品を試し毎号、誌面で発表していた。石油ストーブは実際に突き倒してみた▼すべて素人なりの方法で試し良否をメーカー名を挙げて書いたから、各社や業界団体から猛抗議も受けた。脅迫電話がかかってきたこともあった▼その手帖には名物編集長がいた。花森安治である。商品を使うのは素人だから発言権は素人にある。そう彼は考えていたらしい(「花森安治の仕事」酒井寛著、朝日新聞社)。きょう、没後40年。いま思い起こしたい生活感覚である。

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