国際的に活動してきた禅僧と武道家が「身体」をテーマに語り合った。座禅と武術の実践を基に生の根源を問うために浮かび上がったキーワードは「退歩」。「進歩」の逆で後戻りすること。すなわち人間がかつて持っていた身体感覚と感性を取り戻すことの重要性がさまざまな視点から語られる。

 まず2人が指摘するのは、現代人の身体の変化だ。「床にすわることのできない人が多い」(藤田)、「しゃがむ格好ができない人がどんどん増えている」(光岡)。

 現代人が座禅や武術、気功、ヨガといった古来の行法に取り組む際に直面する困難は、型の難度や努力不足以上に、古今の身体のあり方のギャップに原因がある。筋力アップやストレッチといった現代の身体の鍛え方では真髄に迫ることはできないという。

 では昔の身体に後戻りするにはどうすればいいのか。「見失った身体の発生を経験しながら新たな体を発見し、見守っていく」「(体の中の)『ある』感じではなく、『虚』『無さ』を観ていく」「慣れた見方から外れ、見たことのない一点を観る」。

 「見る」ではなく「観る」、動ではなく不動、有ではなく無。まさに禅問答のようだが、2人は五体投地(仏教の礼法)や馬歩(中国武術の基本歩型)といった身体行法を写真入りで示しながら具体的に探っていく。

 殺傷技術を原点とする武術と不殺生戒の教えを持つ仏教。別々の場所から生命の内奥に迫っていくうちに、両者は必然的な出会いを果たしている。

(晶文社 1600円+税)=片岡義博

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