流通経大柏―前橋育英 後半終了間際、決勝ゴールを決める前橋育英・榎本(右端)。流通経大柏・GK薄井=埼玉スタジアム

 技術面での拙さはもちろん、ある。それを差し引いても、一瞬たりとも目を離せない内容だった。見終わって改めて思ったのは、選手たちの心が伴った試合というのは観衆にも伝わり、飽きさせないということだった。

 第96回全国高校サッカー選手権。いわゆる「冬の選手権」の決勝が1月8日、埼玉スタジアムで行われた。全国4093校の頂点を争ったのは、流通経大柏(千葉)と前橋育英(群馬)。ともに数多くのJリーガーや日本代表選手を輩出している、高校サッカー界の巨人だ。そして、チームを率いるのは、本田裕一郎(70)と山田耕介(58)の両監督。高校サッカーに興味がある人なら誰もが、その名を知っている名将だ。今回の決勝戦は、考えられる対戦の中で最高のカードの一つだった。

 高校年代からこのような濃密な試合をこなしていれば、日本のサッカーは強くなるのでは―。そう思わせるほど試合内容はハイレベルだった。その最大の要因は、試合を通して両チームの選手たちが見せるプレスが激しかったからだ。

 日本では1対1の場面でボールを奪い取るという意識がかなり低い。なぜか。幼いころから、その意識を植え付けられていないからだ。多くの指導者が何の疑問も持たず、まず教えるのは「ディレイ」。つまり、相手の攻撃を遅らせることばかり。もちろん、状況によってはディレイを選択しなければいけない場面もある。ただ、ハリルホジッチ監督の「デュエル」ではないが、1対1の勝負でボールを奪い取る能力がなければ守備における主導権はいつまでたっても握れないのだ。

 この両チームには、「守ったふり」をする選手は誰一人いなかった。ボールを本気で“狩り”にいく。だから、縦パスを棒立ちで受けようとすれば、背後から恐ろしい出足で迫る相手にインターセプトされる。それを避けてボールを収めるためには、パスの受け手も相手をブロックしつつボールを迎えにいかなければならない。その結果、試合のあらゆる局面でまるで剣豪の果たし合いのような激しい球際の神経戦が―しかも頭脳をフル回転した状況で―繰り広げられた。

 とかく日本のサッカーは、相手とのフィジカルコンタクトを避けることばかりに主眼が置かれている。しかし、この日の両校が繰り広げた体のぶつかり合いをいとわないサッカーは違った。このようなプレッシャーの中でプレーするサッカーが若い年代から当たり前になれば、日本のサッカーは確実に変わる。相手の影響を受けないで次のプレーをするためには、トラップしたボールの置き所がまず違ってくるからだ。その意味で、この決勝戦には日本の育成年代の指導法を再考させる要素が詰まっていた。

 両チームともに成熟した組織力と戦術を持つチームだった。見方によっては、組織が破綻して失点を繰り返すどこかのJリーグのチームより、はるかに大人びていた。特に、勝戦まで無失点を誇った流通経大柏の守備は神がかったものがあった。中でも特筆すべきは、後半34分のシーン。前橋育英の右CKから立て続けに起こった三つのピンチを全てゴールライン上で跳ね返してみせたのだ。そこで見せた集中した守備は見事という言葉を通り越していた。

 確かに、流通経大柏にも勝つチャンスはあった。MF宮本優太が後半15分に放ったヘディングシュートは、決まっていてもおかしくなかった。しかし、掲げるプレッシングサッカーは守備に多くの人数を割く。自陣ゴール前を固めたときは必然的に最終ラインが下がり、そこからカウンターで攻め上がるには、相手ゴール前までの距離が長すぎた。それを考えれば、特に後半は前橋育英が主導権を握っていたのは明らかだ。敗れた本田監督も「負けるべきして負けたと思います」と語ったが、その言葉に偽りはなかったはずだ。

 延長戦を目前とした後半ロスタイムに入った47分に決勝点が入る。前橋育英のFW飯島陸が打ったシュートを流通経大柏のDF三本木達哉が体で一度は防ぐ。ところが、前橋育英のFW榎本樹がそのこぼれ球を右足で振り抜き、ネットを揺らした。

 結果論ではあるが、このゴールはもし数年前だったら生まれなかったのかなとも思う。ゴールキーピング技術の転換期。欧州では当たり前になっているGKの守備方法が、高校サッカーでもようやく採用されるようになってきた。それは、シュートに対して両足を開脚してコースを消す方法。しかし、このゴールキーピングの弱点はGKの股の下をボールが通れば、カバーするDFがいない限り確実にゴール内に転がり込むということだ。そして榎本のシュートは、流通経大柏のGK薄井覇斗の股間を抜けた。もし、以前のように手で抑えにいっていたら止められた可能性もあったかもしれない。ただ、このゴールキーピングをしてきたGKコーチは日本には存在しない。だから、何が最適なのかはこれから追求しいていかなければいけない段階といえるのだが。

 ワールドカップ(W杯)イヤーである2018年。日本のサッカー界は、年始めから高校生に大きな教訓を示されたのではないだろうか。観衆の心に響くのは、勝利を追求した一分の隙もない集中力。それが不可欠であるということを。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。

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