【越山若水】自分が勝てなくても有力な選手を失格させれば、東京五輪に選ばれやすくなる。そう考えたカヌーの選手がライバルの飲み物に禁止薬物を入れ、重い処分を受けた▼最も卑劣な勝利至上主義と言っていいだろう。8年間の資格停止だから東京五輪への出場はもちろん、おそらく選手生命も終わる。悲しいが、自業自得である▼大会に優勝しながら失格になったライバル選手は、どんなに苦しんだか。この話に救いがあるとすれば、良心の呵責(かしゃく)に耐えかね自ら不正を申し出たことだろうか▼同じような病理が、残念なことに子どもの世界にも広がっていると、どこかで読んだことがある。授業中にわざと騒いだりして、級友たちが学習するのを邪魔立てするのである▼自分が努力するより、周りの足を引っ張る方が楽だからだという。効率よく競争に勝つことが一番。子どもたちはそう信じていると、その筆者は書いていて暗い気持ちになった▼こんな世知辛さとは無縁の古川柳で気を晴らしたい。「碁敵(ごがたき)は憎さも憎し懐かしし」。句に流れるのはほほえましい人情の機微。そこを描いた落語「笠(かさ)碁」も楽しい▼実力伯仲の2人が「待った」を巡ってけんか別れをするが、互いに打ちたくて仕方がない。けれど、自分から誘うのは癪(しゃく)で…という噺(はなし)。ライバルとは、心に友情を秘めて切磋琢磨(せっさたくま)し合う仲のことなのだろう。

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