【論説】越前町の越前陶芸村に23年ぶりの文化施設となる県の越前古窯博物館が10月末に開館した。イベント効果もあり、この2カ月で5千人超が来館。陶芸村の各施設にも相乗効果があり、まずまずの滑り出しとなっているようだ。産地内に新しい風を吹かせる中核機能を果たせるのか、今後の取り組みを注目したい。

 博物館の開設コンセプトは大きく三つある。一つ目が越前古窯群の研究。二つ目が伝統的家屋や芸能など里山の風土の保全・継承。三つ目が福井ゆかりの岡倉天心の顕彰と茶文化の振興だ。いずれも越前焼など丹南の伝統工芸と融合しながら発信したいという。

 狙いはブランド力向上と誘客だ。越前焼は県内でこそ多くの人に知られるが、首都圏など国内では知名度が低く「都内の百貨店で越前焼といっても簡単には通じない」と産地の主力となっている陶芸家らは話す。市場にあふれる製品の中で選ばれ、来たくなる観光地へと進化するためには、産地が持つ国内的にも秀でた強みを見つけ、研ぎ澄ましていかなければならない。

 同館の三つのコンセプトは、磨き方次第でこの地域ならではの強みとなる可能性がある。一つ目に関しては古代〜近世に陶芸村周辺の山中に200基を超えて築かれたとされる窯跡がある。近年の県の調査で約170基が破壊されないまま残っていることが確認された。同館によると、これだけの規模で現存しているのは国内で例がない。

 この古窯群を戦後に自らの足で確認し遺産価値の紹介に奔走したのが元丹生高教員の故水野九右衛門氏だった。同館は今後、水野氏が残した3万点を超える調査資料をひもとき、歴史的深みを国内外へ発信していく役割を担う。

 窯跡周辺には里山の地形や自然が良好に保たれている場所も多い。漆喰(しっくい)の白壁や越前瓦に彩られた古民家とともに農業など人々の営みが原風景的に残っており、同館の中核施設として移築した水野氏の旧宅はまさに風土を象徴する建物だ。茶文化も含め外国人観光客には魅力に映るはず。既に同館を拠点に窯跡や地域内を巡るツアーなどの企画検討が始まっており、展開を見守りたい。

 ただ、ブランド力を国内外に浸透させるには時間がかかる。また窯跡のある森をはじめ風土を保全し、観光的に見栄えの良いものにするためには、やぶに覆われた山の手入れなど住民との連携が欠かせない。周辺集落は高齢化が進み、次の世代もにらんだ息の長い取り組みが必要だろう。

 幸いに今年は、越前焼など日本六古窯が日本遺産に認定された。これも追い風に、新しい産地づくりが進むよう期待したい。

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