【論説】安倍政権の看板政策アベノミクスは、肝心の成長戦略が思うような結果を出していない。それゆえ、根拠の希薄な仮想効果を強調せざるを得ないのだろう。環太平洋連携協定(TPP)と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効した場合の試算だ。

 実質国内総生産(GDP)は合わせて年約13兆円増で、押し上げ効果は2・5%分、雇用効果も約75万2千人と推計した。2協定は2019年にも発効する。今や実質GDP1%前後の低成長に沈む日本経済。安倍政権の2%成長とデフレ脱却という公約達成へ絶好の追い風というわけだ。

 TPPの効果は保護主義に走る米国の離脱で4割超縮小すると試算された。大穴が開いたところへ、日欧EPA交渉が妥結。通商戦略が息を吹き返した。

 全体では、米国離脱でGDPが当初の2・59%アップから1・49%に縮小する一方、日欧EPA効果は0・99%と分析、12カ国TPPによる約13兆6千万円に近い数値を導き出した。貿易が活発化し、商品価格の下落で個人消費が伸び、企業の設備投資も増大する−随分都合のいい見立てだ。

 グローバル経済が一段と進展し、中国が主導権を狙う東アジア地域包括的経済連携(RCEP)やアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想、さらに現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」もある。協定の早期発効は、貿易立国日本が優位に立つための布石であるのは間違いない。

 それで、農業はどうなるのか。安い海外産品の流入による価格下落で国内農林水産物への打撃は必至だ。2協定とも畜産品や木材、魚介類、果樹など各13品で生産額が減るが、政府は最大見積もっても減少額は年約2600億円の小幅にとどまると試算した。体質強化や規模拡大によるコスト抑制などの支援策で農家所得、生産量は維持できるとの判断である。

 随分甘くないか。試算の根拠も不明確で、専門家から「経済効果を過大視し、農業への影響を過小評価している」との指摘もある。

 どうみても官邸主導による「バラ色の未来戦略」であり、成果の乏しい成長戦略を得意の外交で色付けしたい狙いが透ける。有識者による詳細な検証と国会での議論が必要だ。

 日本農業の現状は厳しく兼業農家が7割を占め、高齢化と後継難にあえぐ。農地面積は年々減少。農業生産額も1984年の約11兆7200億円をピークに減少し、国内GDPに占める割合はわずか1%程度だ。構造改革も進まない。

 今回の試算は、政府の対策が着実に効果を上げていくことが大前提だ。実際は赤字の穴埋めで農家所得を確保するという従来型の保護政策と変わらない。

 農業は国土保全と食料安全保障の要であり、基幹産業である。輸出戦略も重要だが、質の高い農業経営による「国産国消」で食料自給率を高めることはもっと重要だ。守るべきものは守っていく。それが地方創生の原点でもあろう。

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