【越山若水】いつか必ず犬に食いつかれる自信がある、と書いたのは太宰治である(「畜犬談」)。「諸君、犬は猛獣である」と呼び掛け、悪口の限りを尽くしてこき下ろした▼かといって心底犬嫌いなのかは怪しい。家まで後を付いてきた捨て犬を飼い始めると「一つもいいところがない」と毒づきながら世話を焼き続けたからである▼結末はさらに怪しい。犬がひどい皮膚病にかかり、処分することに。でも、毒が効かなかった。主人公は妻に言う。「ゆるしてやろうよ。皮膚病なんてすぐ治る」▼犬に食いつかれるとは毛頭考えない当方には、これこそが犬の魅力だ。飼い主を信じ切ったような、あの風情。遠い昔から身近にいて「ペットの王様」ともいわれた理由である▼その王座を奪われた。業界団体の調べで、犬猫の飼育数がことし逆転したという。犬は毎日の散歩が必要で予防接種もしなければならない。その点、猫はあまり手がかからない▼犬が長生きするようになったこともある。最期まで世話できるかどうか高齢社会ならではの不安があり、それなら代わりにと猫を飼うお年寄りが増えてきたせいらしい▼来年の戌(いぬ)年を前に犬の面目が立たない話、と考えるのは人間の勝手。2016年度の殺処分数を比べると、猫は犬の約4・5倍。手に入れやすいからのようだ。手軽に飼われ、簡単に捨てられる。王様が不憫(ふびん)だ。

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