桃を食べたせいかどうか、暑さでほとんど睡れなかったのに元気いっぱいで、食欲旺盛、朝早くから山へ出かけてホトトギスも聞いた。

 ところが帰ってからニキビのようなものが額にでき、ヒリヒリと蟻に刺されたように痛んで、顔が腫れてきた。診察を受けたらまぎれもない帯状疱疹であった。あわてて本草書を見たら『たくさん食べると瘡(かさ)や癤(せつ)がおきる』とか「熱が出て内外のはれものやおでき、おこりや、下痢になる」などという説まである。土地の人々が「かぶれる」というのも、故なきことではないかも知れない。

 ところが同じ桃でも、桃の葉には身体の内外のはれもの、おでき、湿疹、アセモのほか、おこり、頭痛などを治療する効能があるとされている。煎じた水を塗布したり、洗滌するのに使うほか、なまの葉をすりつぶした汁を塗ったり、煎じた湯を服用する方法とか、葉を酒に漬けておき、その液を塗る処方もある。・・・』(『食べ物は医薬―「医心方」にみる4千年の知恵』 槇佐知子 筑摩書房より抜粋)

 その著書『食べ物は医薬」や「日本昔話と古代医術」によれば、桃太郎のお伽話は桃を食べて若返った婆、あるいは老夫婦から男の子が生まれる「回春譚」と桃の実の核から小さな子が生まれる「うつぼぶね型」とに分類されてきたというのです。

 桃が二つに割れてタネの中にあるのを仁といい古代は「人」と書いたという。仁を「桃人」または「桃仁」「桃核仁』といい、「桃人」は桃の人だからまさに桃太郎そのものであるというのです。

 さらにその薬効を見ると、桃はその果実(桃子)、桃仁、桃の葉、花・・・それぞれにいろいろな薬効があるとされています。

 桃は五行の精の仙木で、邪気を伏せ、百鬼を殺す力があると信じられ、人々は門に桃の木の符を用い、地上に桃撅(とうけつー桃の木で作ったくい)を打ち付けて家宅の鎮めとした、とあります。

 鬼は東南の枝の実をもっとも怖れると考えられていて、さらに、冬になっても落ちずに枝に残って、はりつけの首のようになっている桃の実を「桃奴」といい、百鬼や妖怪変化を殺し、悪寒発熱や、鬼瘧(もののけによるおこり)をなおすという説もあるというのです。

 憑きものには桃人50個を一斗の水で煎じて服用せよ」という処方があり、鬼気や悪い憑きものの治療にも桃人70個を配合させている医書もある。一門が滅亡する怖しい伝染病も、鬼気のせいとされ、桃を薬用にしたと書かれています。

 本来の桃の持つ成分の強さや薬効についてはここではこのくらいにして、お伽話「桃太郎」のもう一方の世界、「うつぼぶね型」の世界をさらにたどっていきたいとおもいます。
 

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