セミナーで事業承継への準備と心構えを学ぶ経営者ら。会社の将来を見据えた早めの準備が大切になる=11月、福井県越前市の武生商工会議所

 後継者は決まっていますか―。7年前、当時65歳で製造業の経営者だった男性の胸に、取引先からのひと言が突き刺さった。20代で勤めていた会社が倒産し、職を失った仲間と新会社を立ち上げて約40年。モノづくりに没頭し、ピーク時には年間売上高を10億円まで伸ばしたが、ふと気付いたときに後継者不在という現実に直面した。

 親族、従業員に引き継ぎを持ち掛けたが、いい返事はなかった。そこで主力銀行に相談し、会社を売却する選択肢が浮上した。男性は「会社を譲るって恥ずかしい。身売りだから。でも社員の雇用を守れる。体力のある優良企業への承継で事業はさらに成長し、大切な顧客も引き継いでもらえる」。葛藤の末に売却を決断。社員にも極秘で交渉を進めた。

 社名は残った。資産をはじめ、長年培った技術、取引先との信頼、人脈もひっくるめて県外の他社に引き継ぐことができた。早めの決断が奏功した結果に、男性は「体力や決断力は必ず衰える。何が会社にとって、地域社会にとってベストな選択なのか。経営者は会社に人生をかけている。存続こそが大切」と力を込めた。

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