【越山若水】この時期だから寒いのは仕方がないが、どんよりと暗い空はたまらない。「赤いものに心が焦がれる」と書いた食文化研究家、向笠千恵子さんの思いがよく分かる▼きのうの本紙に「身につけるならマフラーや手袋だが、食べるなら金時芋だ」とあった。あわら市特産のとみつ金時は確かに、見ほれるほどの鮮やかな紅色だ▼「ほっこりほくほく」に心ひかれながら、奇妙なことに「手袋」が頭を離れない。目にした瞬間から、なぜか新美南吉の「手袋を買いに」が懐かしく思いだされた▼覚えておいでの人も多いだろう。子狐(きつね)が人間の街で母狐の代わりに手袋を買って戻るというだけの話だが、描かれた母子の情愛に心が温まる。人間の優しさや怖さも出てくる▼記憶に残るのは最後の母狐のつぶやきだ。捕まるから出すなと言った手を、子狐は出す。でも無事に戻り、人間は怖くないというのを見て「ほんとうに人間はいいものかしら」▼「ほんとうに教育無償化はいいものか」と言いたい気分である。幼児教育ではそもそも保育サービスのインフラが決定的に足りないと聞くからだ▼保育園に運良く入れた家庭は「無償化」され、預けられずにただでさえ困っている家庭には何も恩恵がない。優先順位が違うと野党は指摘しているが、政府が取り合う様子は見られない。政治の冷たい風に親子の手はかじかんでいる。

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