【越山若水】「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」。7日の「大雪」の前は七十二候の60番目、柑橘(かんきつ)類の実が黄色くなる時候だという。年の瀬と冬支度で身も心も慌ただしい▼京都御所を訪れた人ならご存じだろう、紫宸殿(ししんでん)の正面に「左近の桜」と「右近の橘」が植わっていることを。橘は常緑樹ゆえに長寿瑞祥(ずいしょう)を願ったといわれる▼日本書紀には田道間守(たじまもり)が垂仁天皇の命で不老不死の薬、非時香菓(ときじくのかくのこのみ)を常世(とこよ)の国へ探しに行くという物語がある。その果実こそ橘だという▼はるか昔の伝説の樹木、その詳細は定かではない。ただ野生のミカン科の仲間で、冬が旬の柑橘類という説が専らだ。実際にミカン、ユズ、ダイダイ、イヨカンなどは健康効果が高いことで知られる▼こたつでミカン―といえば日本の冬の風物詩である。免疫力を高めるビタミンCが豊富で、黄色の天然色素は抗酸化力が強い。だから風邪や生活習慣病の予防に効くらしい▼さらにミカンの果皮を乾燥した陳皮は漢方薬の原料で、七味唐辛子にも含まれる。風呂に入れれば、血流を改善し体はポカポカ、肌もスベスベになる▼わせミカンは10月から出回るが、普通ミカンは七十二候の「橘始黄」、まさにこれから最盛期。寒さがいや増す初冬が一番おいしい。「をとめ今たべし蜜柑(みかん)の香をまとひ」。日野草城が詠んだ甘美な一句である。

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