【論説】「用を節して人を愛す」とは2500年も前に孔子が説いた財政の眼目だ(「論語」)。政治に携わる者は、税金を元に仕事をしているのだから費用を節約し、人民の福利増進を図れというのである。

 外国人旅行者や日本人が出国する際に徴収する「観光促進税」が2019年4月から、また森林の間伐費用などを賄う「森林環境税」が24年度から、それぞれ導入される方向になった。

 恒久的な国税の新設は、土地バブル対策のため1992年に導入された「地価税」以来。

 孔子の金言は生かされるだろうか。

 ■1人当たり千円■

 観光促進税は、航空機や船舶を問わず日本から出国する全ての人から1人当たり千円を徴収する内容だ。航空機利用ならチケット代に上乗せし、船舶の場合は実態を踏まえた徴収方法を採用するという。

 導入の背景には訪日客の急増がある。16年は2404万人と5年前に比べて3倍近くに増え、消費額も3兆7476億円で約3・5倍となった。

 国は東京五輪・パラリンピックの20年に4千万人、30年には6千万人の達成を目標に掲げている。そのためには観光インフラの整備など観光立国実現に向けた各種施策が必要になる。

 その財源として浮上したのが観光促進税である。使途には出入国手続きの迅速化や標識の多言語対応、地方の観光振興などを見込んでいる。

 一方の森林環境税は、二酸化炭素の削減や土砂災害防止を目的として、約6千万人が負担する個人住民税に1人当たり年間千円を上乗せして徴収する。森林面積などに応じて自治体に配分し、荒廃した森林の整備に充てる。

 ■取りやすいところから■

 どちらの新税導入も、理由はもっともである。だが、疑問や課題も少なくない。

 特に観光促進税である。「受益者負担」の原則から懸け離れていないかとの指摘は傾聴に値する。

 まず、出国する日本人には千円を負担するだけのメリットはあまりない。いまでもそれほど待たずに出入国できるし、まして標識の多言語化には関係ないからだ。

 そこで、税を負担する対象を外国人に限ることも検討されたようだが、各国と結ぶ租税条約などに「国籍無差別」の原則があるため立ち消えになった。

 結局、海外旅行を楽しむぐらいの経済力がある人たちだから許容範囲とみたのではないか。税金は取りやすいところから取る、という典型例だろう。

 もっとも、訪日外国人であっても全員に十分な利益があるわけではない。2割はビジネス目的だからで、税の投入で観光関連施設が整備されても負担に見合う受益はなさそうだ。

 ■無駄遣いの恐れ■

 二つの税を導入すると、税収はどうなるか。

 16年の出国者は訪日外国人と日本人を合わせて約4千万人なので、観光促進税で約400億円。観光庁の17年度当初予算の2倍近くになる。もう一つの森林税は、個人住民税を支払っている約6千万人に千円を掛けて約600億円だ。

 いずれも特定の目的に使うだけに、税収を1年ごとに使い切ろうとして無駄遣いされる恐れがある。かつてのガソリン税がそうだった。道路整備のための財源だったのに、マッサージチェアの購入などに使われた。

 先日あった自民党の税制調査会では早速、二つの新税を巡って想定以上の使い道を求める声が上がった。「用を節して…」の金言とは無縁の様相である。

 現パナソニック創業者の松下幸之助にも政治家を戒める言葉がある。「税金を取るのは当然と考えるばかりか、増税することに痛みを感じない為政者は失格である」。安倍晋三政権はどうなのか。

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