【越山若水】「石の香や夏草赤く露あつし」。俳聖・松尾芭蕉は「奥の細道」の道中、今の栃木県那須温泉近くにある史跡「殺生石」を訪れた。そのときに詠んだ一句である▼強烈な臭いの有毒ガスが噴出し、緑の夏草は赤く枯れ、涼しいはずの露も沸騰して熱い。「蜂や蝶の類いが砂の色が見えないほど死んでいた」とも書き残した▼今更ではあるが、ここに登場した「殺生」とは生き物を殺すこと。仏教の戒律でも最上位に置かれ、最も重い罪とされる。さらに思いやりがなく非道なことも言う▼単に東洋の一宗教が禁じているだけでなく、当然ながらキリスト教でも重大な禁忌である。旧約聖書のモーゼの十戒に「汝殺すなかれ」とあるのはご存じだろう。要するに人類共通の道徳律である▼中でも最大の殺生と言えば、血で血を洗う戦争である。誰もが憎んでいるのに、世界のどこかで悲惨な紛争が起きている。加えて核兵器による大量殺傷の恐怖も付きまとう▼核軍縮の方策を有識者が議論をする第1回「賢人会議」が被爆地のヒロシマで始まった。核保有・非保有国双方の委員が核兵器削減の提言をまとめる▼今年7月に国連で採択された核禁止条約に日本は参加せず批判された。冒頭の殺生石の場合、玄翁(げんのう)和尚が大槌で破壊し悪霊を成仏させたという。さて「殺生兵器」の行方はどうなる。仲介する日本の役割は大きい。

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