【越山若水】20世紀初頭、米国で「白人はアメリカ・インディアンから何を学んだらいいか」という本が出版された。著者はインディアンと長く生活を共にした心理学者である▼インディアンは男女とも肉体労働が中心の暮らしを喜びとしていた。白人のように仕事の内容には執着せず、競争によるストレスも少なく非常に健康的だった▼その現実を知って、心理学者は米国社会の問題点に思い至った。白人たちは職業の貴賎(きせん)という愚かな価値観に縛られ、競争から生じる精神的な苦痛に疲弊している▼そして作者は書物に次のような大胆な宣言文を記した。「私の息子には、不正な事件を担当する名誉ある弁護士になるよりも、毎日街をきれいにするために働く善良な市街清掃人になることを望む」▼最初は誰もが「善良な弁護士」を目標にする。ところが徐々に報酬や名誉を求め始める。世間も詐欺師の弁護でも無罪を勝ち取った弁護士を「名誉ある弁護士」と評価する▼わが国でも過払い金の返還訴訟で知られる法律事務所が、期間限定をうたった着手金無料キャンペーンを継続し、弁護士会から業務停止処分を受けた▼顧客集めの違法広告は消費者庁もクギを刺していた。事務所は「処分は重すぎる」と反論するが、法を犯すことは弁護士として最大の背徳。「名誉ある弁護士」ではなく「善良な弁護士」へ一から出直しである。

関連記事
あわせて読みたい