【越山若水】「大根漬けるや黄金白銀塩小糠(こぬか) 磯部尺山子」。発酵学者の小泉武夫さんによると、日本は漬物大国。その数は優に3千種を超え、大根だけで50種もあるという▼具材も冒頭の大根をはじめ、春の山菜や夏のキュウリ、ナス、この時期に出回る冬菜まで限りがない。四方が海だけにサバやブリ、ニシンなど魚介も漬け込む▼その伝統を支えるのは、何と言っても、漬(つ)け床(どこ)の豊富さだろう。味噌(みそ)やしょうゆ、米糠、酒かす、こうじなど陣容は多彩。列島各地に特産の漬物が数多く生まれた▼小泉さんが先人の知恵として絶賛するのが糠漬けである。米糠はビタミンB群の宝庫で、糠味噌には微生物や乳酸菌が含まれている。漬物を食べると、ヨーグルトや乳酸菌飲料と変わらぬ作用がある▼昔から糠味噌は母親が手を入れ、漬物の味は家庭ごとに異なった。また酒かすと米糠は貧しさの象徴とされ、故事成語「糟糠(そうこう)の妻」は長く連れ添い苦労を共にした妻のこと▼「賞といふもののほしきにあらざれど糟糠の妻に贈らんと思ふ」。漢字学者の故白川静さんが1991年、菊池寛賞を受賞した際に詠んだ短歌である▼きょう11月22日は語呂合わせで「いい夫婦の日」である。近ごろは自前で糠味噌をつくる家庭も減っている。ただ食卓の漬物がたとえ市販品でも、日本が誇る発酵文化。「糟糠の妻」への感謝と共に大事にしたい。
 

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